「たっだいま~、クラウド! 朝ぶり~…って、うおっ! 何だこの匂い!!」
自宅に帰ってきたザックスを最初に襲ったのは、部屋中に充満する青臭い匂いだった。 「クラウド! どうしたんだ、クラウド!」
慌てて中にいるであろう可愛い恋人の元へと駆けていく。 異臭というわけではないが、通常とは明らかに違う強い匂い。それだけで、ザックスがクラウドを心配する理由は充分だった。
「クラウド!」 「あ、おかえり、ザックス。ね、コレ飲める?」 が、慌ててキッチンに駆け込んだザックスを向かえたのは、引きちぎられた葉だらけのキッチンの中に平然と立つクラウドの姿だった。 「へ…?」 「だから、コレ。飲める?」 「コレ…?」 ザックスは今更ながらに冷静にクラウドの周囲を見回した。 テーブルの上に散りばめられた葉の残骸は、元は何かの葉物野菜なのだろう。その中にある黄色い皮は見て分かるバナナだ。房の数は2~4本といった所だろうか。 そしてクラウドが言う「コレ」とはミキサーの中に入っている緑色のもの。 「それ…なに?」 「なんだっけ…確かス…ス…。スヌーピー?」 「ああ、スムージーな」 「そう、それそれ」 そう言ってクラウドは真面目に頷く。決してボケているわけではないのだ。だからこそ、ツッコミを入れたいザックスとしてはそのやり場がない。 「……(汗)。 …で、なんでスムージー?」 「ザックスに作ってあげなって、今日同僚から貰ったんだ」 ザックスはテーブルに近づいてその葉の切れ端を拾う。拾ってみればわかる。それは小松菜だった。 「小松菜でグリーンスムージーを作ってたのか」 「うん。でも、なんかマズくてさ、それで色々やってみたんだけど、やっぱりマズイんだよね。それともザックス、スムージーでこんなもん?」
そう言いながらクラウドが蓋を開けて見せると、やはりそれは異常な青臭さを放つドロドロとしたものだった。 「うわー…、これは小松菜の入れすぎだ…これじゃスムージーじゃなくて、ただの青汁だぞ」 計算されて作られた青汁の方がこれの何倍も美味いだろうとは思ったが、他に表現のしようもなくザックスはそう言って困ったように頬を掻く。 その様子にクラウドはシュンとうな垂れた。 「そっか…。俺また出来なかったんだな…」 「あー…、いや、ま…そうだなぁ…」 そんなクラウドにザックスもしどろもどろになる。 大して興味も無いものを調べもしないで適当にやるから失敗するんだ。と、ハッキリと言ってやれば良いのだが、そこは惚れた弱み。 繊細なくせに無頓着なクラウドがそれでもやってみた事を、ザックスはほんのカケラでもたしなめることは出来なかった。 たとえそれが、クラウドには過剰な甘やかしになったとしてもだ。 その結果、
「でもせっかく作ったんだし、これは俺がもらうよ!」
満面の作り笑顔でザックスは自殺行為を宣言した。 ザックスを知る全ての人に「だからお前はバカだと言うんだ」と総ツッコミされるザックスのバカさ加減がここにある。 だが、これも仕方ないのだ、これが惚れた弱み。 「ホントに…? ザックスはこれが飲めるの?」 「もちろん、飲める飲める♪ ソルジャーはこれくらい平気さ」 疑わしい視線を向けるクラウドに笑顔で大見得を切り、まかせろとばかりに胸を叩く。 「よかった。無駄にしたら同僚に悪いと思ってさ」 それに安心したクラウドの笑顔でザックスの目尻が下がるのもまた、どうしようもない程の惚れた弱みなのだ。
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