■ 僕が小松菜を嫌いになった理由
02 

 

「俺だって、何もできないわけじゃないし…料理くらいやれば出来るさ」
 そう自分へ言い聞かすような独り言を呟きながらクラウドがキッチンに立ったのは、帰宅してすぐのこと。
 家に帰る前に、バナナと牛乳をしっかりと買ってきたのは、仮にも存在するやる気にの現われだ。
「そもそも、俺に何にもやらせないザックスが悪いんだ。見てろよ、美味いスムーなんとかを作って驚かせてやる」
 『スムージー』という名前さえすでにうる覚えだが、今、この場にそれを心配してくれるザックスはいない。
よって、このクラウドを止める者はどこにもいなかった。

「まずはミキサーにバナナ1本と牛乳をちょろっと」
 ミキサーの中に皮を剥いたバナナをドコンと入れ、牛乳を適当に垂らす。
「それから小松菜」
 そして、適当に水で洗った小松菜を手で契りながら次々とミキサーの中へと入れた。
「うぇ…なんか青臭い…」
 手についた小松菜の匂いを気にしながらも次々と入れる。一束、二束…
「こんだけ入れればいいかな。いや、まだ入るか」
 ミキサーを揺らし、隙間を埋めるように小松菜を押すと、さらに小松菜を追加した。
「こんなもんかな。よし、スイッチオン!」

 ミキサーの中でいっぱいになった野菜達は回りきれずに唸りを上げ、それでもしつこく回される刃に根負けしたようにやがて端から液体化していく。
 文明の利器の前では、野菜の抵抗など儚いものなのだ。




「よーし、完成!」
 そして出来上がった真緑の液体にクラウドは満足そうに笑うと、味見をしようとパカリと蓋を開ける。
 そして、そこから出てきた香りに、その綺麗な顔を奇奇怪怪に歪めた。
「………うぇ……」
 恐ろしいほどの青臭さ。そしてドロドロしたその液体に身がすくんだ。
 これではとても味見どころではない。
 野菜とはこんなに匂いのきつかったものだろうかと、これが流行の飲み物なのだろうかとクラウドは自問自答する。
「……バナナが足りなかったのかな…」
 そして、バナナを足し、ついでに水も足してさらにミキサーを回す。
「…なんか、変わんないな…」
 変わらぬ惨状に首を傾げ、
「…水入れた方がいいかも…」
 その変わらぬ惨状を打開するべく、さらに水を足した。


 回しては蓋を開け、さらに回す。
 
 何かを足して、さらに回す。


 本来ならば数分で終るレシピ。
 だが、路頭に迷ったクラウドのミキサー料理は、その後永遠と続けられていったのだった。




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