■ 僕が小松菜を嫌いになった理由
01 

 

「クラウド、これやるよ」

 そう言って同僚が渡してくれた袋の中には、濃い緑色の野菜が沢山入っていた。
「ほうれん草?」
「いんや、小松菜。田舎のお袋が送ってきてくれたんだけどさ、俺、寮だから食いきれないんだ。お前はサー・ザックスと一緒だろ? 2人で食ってくれよ」
 そう言いながら嬉しそうに頬を染める同僚に、クラウドは「目当てはそっちか」と内心で呟く。
 普段はバカが付くほど能天気な男だが、ザックスは仮にもソルジャー1st。かの英雄と肩を並べるエリート中のエリートなのだ。その誰もが憧れる存在に、会社の監査無しで差し入れが出来る。それは一般兵からすれば天に舞い上がるほど名誉なことだった。
 ただ1人。同棲中のクラウドを除いては…。

「いいけど…、俺は料理できないからこのままザックスに渡すだけだよ?」
「え? お前が料理してんじゃないの? 一般兵よりソルジャーの方が忙しいだろ?」
 その忙しさを理由にした考えにクラウドは少なからず顔をムスッとさせた。
「俺だって、仕事をしてる」
 忙しさの比重で言えば確かにソルジャーの方が上だ。だが、根本的に体力だって違うのだ。拘束時間だけで比較されるのは納得がいかない。
「そりゃそうだけどよ…。じゃあなに、もしかしてサー・ザックスがメシ作ってんの?」
「そうだけど?」
「お前は?」
「やらない」
「全然?」
「全然」
 その、クラウドの『断固やらない』『それが当たり前』姿勢に今度は同僚の方が目を剥いた。
「お前、そりゃいくらなんでも悪いぜ! 家賃も払わず世話になってんだろ?! だったら簡単なものでもいいから何か作れよ!」
「でも俺、包丁使えないし」
「包丁無くてもいいやつあるだろ? あー、そうだ! スムージー! スムージーならミキサーだけで作れるからいいぞ! 今流行だし!」
「スムージー?」
「ミキサーの中に野菜とか果物とか入れてガーッとやる飲み物だよ。ちょっとドロッとしてるけど体にいいんだ。お前、知らねぇの?」
「知らない」
「なら試しにやってみろよ、簡単だから。この小松菜と、あとバナナ1本と牛乳をちょろっとミキサーに入れるんだ。それで完成! な、簡単だろ?」
「…本当に入れるだけ?」
「そうそう、入れるだけ! 簡単、簡単!」
「…ふーん」


 同僚の「簡単」の言葉に背中を押され、かくしてクラウドの危険なスムージー作りは始まった。




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