■ 僕が小松菜を嫌いになった理由
04 



「俺が作ってやるからさ、クラウドも飲もうぜ」
「え?」
 ザックスがグラスに移すミキサーの中の超濃厚スムージーに、クラウドは怪訝そうに眉をひそめた。
 作ったのは自分だが、とても人間の食い物には見えないからだ。
 そんなクラウドに心情に気付いてか、ザックスは仕方なさそうに笑う。
「ちゃんと初心者向けのもんを作るから大丈夫だって」
「初心者向け?」
「そ。グリーンスムージーには慣れが必要なんだ。飲んだことがないヤツがいきなり濃いのは無理だ」
 ミキサーを洗い、ザックスはそこにバナナを半分輪切りにして入れると、そこに小松菜の小さな葉を一枚だけ入れた。
「え? それだけ?」
「最初はな。茎は葉より青臭いから入れない。味に慣れたら少しずつ増やしていけばいいのさ」
「ふーん」
「あとはそうだなー。あ、確かリンゴジュースがあったよな。それを入れよう」
「リンゴジュース?」
「うん。飲みやすくなるんだ」
 冷蔵庫からリンゴジューズを出すとそれを足し、「コイツはさらにおまけ」と、ザックスは氷と砂糖も少し足した。
「あとはスイッチを押すだけ」
「ずいぶん少ないんだな」
「一人前だしな。そんなにガブガブ飲むもんでもないし」
 目の前でモーターの音を立てて回転するミキサーを、クラウドは不思議そうに見つめた。
 軽やかに具材を巻き込み、瞬く間に液体化していく様はまさにドリンク。自分がやった時のものとはずいぶんと違う。
 さらに違ったのはその時間だ。
「…もう、混ざったんじゃないのか?」
 ミキサーの中の固形物は無くなってもザックスは回転を止めない。
「もうちょい。細かくすればするほど飲みやすくなるんだ」
「へぇ、そうなんだ」

 


 クラウドがかけた時間の3倍は回してザックスはやっと機械を止めた。
 その仕上がりをザックスがスプーンに掬い軽く味見をすると、満足そうに頷く。
「うん、美味い。ほら、クラウド。飲んでみ?」
 グラスに注いで出来上がったのはほのかなグリーン色の、見るからにおいしそうなシェイクだった。
 クラウドがそれを口にすると、冷たいシェイクは口当たりよく口の中に入り、甘いバナナの味と香りの中にほのかな葉物野菜の香りが混じっていた。
「…おいしい」
「だろ?」
「うん、これなら飲める。さっきのはゲテモノかと思うくらいまずかったからさ」
「……え? ゲテモノ?」
「うん。よく、ザックスはあんなマズイもの飲む気になるよね。ソルジャーって味覚ないの?」
「……」
「じゃあ俺、見たいテレビがあるからリビングに行ってる。ご飯できたら呼んでね」
 軽く片手を挙げて、クラウドはおいしいスムージーを片手に機嫌良くリビングへと消えて行く。


 キッチンに1人残されたザックスの傍らには、作り主に「ゲテモノ」と評価された尋常ではないくらいに濃厚なスムージーがただひとつ。
 その物悲しいほどの濃緑の色を、ザックスは気だるい溜息を漏らしながら見つめた。

 可愛い恋人が幸せなら、俺も幸せ。
 それがザックスの最大の長所。だが、人はそれを「バカ」と呼ぶ。
「それはないんじゃないの? クラウドさん…」
 世にも青臭い飲み物を手にしなから、しばらくは小松菜はいらないと本気で心に決めたザックスだった。





end. 


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