■ 聖夜に恋人達が交わすのは 02 |
「ザックス!着替えてこいよ、俺、その間にピザを温めておくから」 リビングに入るなりテーブルにピザを置こうとしていたザックスの背を押す。 「ピザ、また冷めてないぜ?」 「でもアツアツの方が美味いだろ?俺だってオーブンくらい使える」 よし!俺上手い!と、クラウドは内心でガッツポーズをする。 誤ってオーブンに近づき、ウッカリ発見してしまうのは最高に自然な流れだ。 が、その自然さに従わないのもザックスだ。 「なら、その前にお帰りのチュ~」 クルリを回転して唇を突き出すバカ男に、クラウドは内心でドッと汗をかく。 (バカ!それ所じゃないのに!) けれどそんな悲鳴は浮かれ捲くったザックスには決して聞こえない。 「してくんないなら、行かなーい」 「~~っ!!」 クラウドがどんなに睨んでも知らぬ存ぜぬ。 ザックスはニコニコと笑いながらその両腕をクラウドの背に回しガッシリと抱え込んでしまった。言葉も声も軽いが、こんな時のザックスは言い出したらテコでも動かない。 『この、めんどくさいバカ犬!』と、クラウドが心底感じるのもこんな時だ。 「…ちょっとだけだからな」 もうどうでもいいからとにかく早くどっかに行け。そんな思いに急き立てられてクラウドは背伸びをすると、ザックスの冷えた唇にそっと寄せた。 僅かに重なった唇。 久々に触れたその冷たさにクラウドは一瞬動きを止めた。 「…冷た…」 「ん?ああ、外走ってきたからな。ごめん、寒かった?」 あどけない笑顔のままザックスはクラウドの背に回した腕をあっさりと解く。 「…ぇ…」 そのあっけなさにクラウドは急に心細くなり眉尻をさげた。 ずるいのだ、ザックスは。 しつこくしてくる事に慣らしておきながらそれを未然に防ごうとすると、いともあっけなく手を離してくる。 そうして不安や心細さを掻き立てておいて、その場でクラウドが折れるのを待つのだから。 「あの、おれ…」 「ん?」 分かっておいて、首を傾げるザックスは本当にずるい。 「俺…寒いの平気」 素直に本心を告げるのは嫌だし、まんまとザックスの手に踊らされるのも悔しい。でも、心細さはもっと嫌。 そんなクラウドには視線を逸らしながら遠まわしにポツリと零すのが精一杯だ。 それでもザックスはその一言にちゃんと気がつき、クラウドの額にコツンとおでこを合わせ嬉しそうに微笑んだ。 「じゃあ。もうちょっとだけ暖めてくれる?」 「……ちょっとだけだからな」 頬を染めてふて腐れて言うクラウドにザックスは目を細め、再び互いを抱きしめながら唇を重ねあった。 ザックスの出した助け舟に仕方がないフリをして乗るクラウド。 飽きもせず何度も同じきっかけを作りながら交わす睦言が2人には幸せの時間であり、どうにもクセになるほどハマってしまう甘い時間だ。 ザックスのキスは決して乱暴をしない。 優しく触れて包んで、クラウドを安心しきらせてしまうような蕩けるほどの甘いキスを繰り返す。その揺りかごに身を任せてしまいたくなる誘惑に駆られ、クラウドの微熱は瞬く間にあがってしまうのだ。 このまま、流されてしまいたい。そんな思いがチラリを浮かぶが、今日のクラウドは少し違った。 「ザ、ザックス…」 口付けの合間に身を捩って。ザックスの胸を押そうとする。 頭の片隅に例のクリスマスプレゼントの事がよぎってどうしても消えない。気になって集中できないのだ。 「なに?」 「も、着替えてこいって…」 話すと互いの唇に吐息が掛かる。この距離では当然逃げることは出来ず、ザックスは言葉の合間を縫って小さな口付けを落としてくる。 「もうちょっと」 「後にしよ…って、ちょ…ん」 「クラウド、可愛い」 いつもなら流されてもいいだろう頃になっても顔を赤くして必死に身を捩って抵抗する。そんなクラウドが可愛くて仕方が無いとばかりにザックスは背を大きく撫で、頬に耳たぶに口付けを落とす。 「ちょっ…ザック…!」 ザックスの手が背中から腰へと回り、あれほど冷たかった唇が熱を帯びてクラウドの細い首を這いだすとクラウドはいよいよ本気で焦り始めた。 「ザッ…」 これ以上触れられたら本気で流されてしまう。クラウドの中でも流されたい気持ちはもうとっくに膨らんでいる。それをギリギリで抑えているのは今日見つけたクリスマスプレゼントにさんざん悩んだ思いだけ。 でも、それすらどうでもよくなりそうで、クラウドは今にも掠れそうな目を閉じた。 「好きだよ、クラウド」 そう囁かれてのど元のシャツのボタンをひとつ外される。 (ああ、もうだめだ…) 蕩けそうな脳の痺れに負けそうになった瞬間、クラウドの首に細くてヒヤリとした何かが触れた。 「はい。クリスマスプレゼント」 「え?」 ザックスの声に目を開けると、クラウドの首には細い鎖のネックレスがかけられていた。 手を添えてみると、そのチェーンの先には宝石らしき突起の付いた小さなアルファベットのチャームが下がっているのが分かる。クラウドが指先に感じるその形は 「…Z…?」 「そ。俺の名前、ずっとクラウドに抱いてて欲しいんだ」 「……っ」 そんなことを真顔で言ってくるザックスにクラウドの鼓動は跳ねる。 命がかかわる重い任務を仕事とするザックス。そのザックスに『ずっと抱いていて』と言われて嬉しくないわけがなく、クラウドの鼻の奥にツンと小さな痛みが走った。 「そんなに…俺が好き?」 「世界一」 なのにひねくれもののクラウドはそんな事しか言えず、それでもザックスは包みこむような笑顔をくれる。 大好きだ。 その一言を言うのが恥ずかしくてクラウドは口を噤んでしまうけれど、思いは伝われとばかりにギュっとザックスにしがみついた。 そして当然のようにザックスはそれを包み込む。 大好きだ。大好きだ。ザックス。 お調子者でずる賢い、お祭り好きの愛しいバカ男。 今夜は聖夜。 たまには素直に正直な本心でも言ってみようか。 偶然にもクラウドが用意したのも小さなチャーム。 ザックスの言葉をかりたなら、もしかしたら言えるかもしれない。 そんな事を考えながら、クラウドはザックスの暖かい腕の中に包まれていた。 |
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