■ 聖夜に恋人達が交わすのは 
01 

 
「どうして…」
 珍しくオーブンを開いたクラウドは、その中に入っていたものを見て固まった。
「どうして、こんな所に…」
 そこには赤い包装紙に緑のリボンの巻かれた大きな紙包みがひとつ。オーブンの中をめいいっぱい占拠して入れ込まれていた。
 今日はクリスマスイブ。一見して分かるその配色は、明らかに今夜、ザックスからクラウドへのクリスマスのプレゼントになるはずのもの…だった。





【 聖夜に恋人達が交わすのは 】






 『いい子にしてたらサンタが来るからな』と言って、ザックスが笑顔でミッションに出かけて行ったのは3日前。『クラウドが待っていれば、24日の夜には帰って来る』そう言いたかったのだろう。
 クラウドはもう16歳。小柄な外見なのは認めるが、これでもちゃんと給料をもらう兵士として立派に仕事をしている。
 サンタのプレゼントを心待ちにするような子供でもなければ、危険な任務に赴く恋人の身を案じる事も出来ない程の我侭でもない。
 クリスマスに関わらず、ザックスが無事に帰ってきてくれればそれだけでいいのだ。
 だというのに、ザックスはまるで自分こそがサンタを待ちわびている子供のようにワクワクとした顔でミッションに出かけていった。
 『帰ってきたらクラウドにプレゼントをあげよう』『喜ばせよう』『よーし、ミッション頑張るぞ!』そんなことで頭をいっぱいにして行ったのが手に取るように分かる。
 だからこそ、クラウドもまたザックスのそんな気持ちに応えようとしていたのに。

「隠すなら、もっとちゃんと隠せよ…バカ」

 あまりにも甘すぎる隠し場所にクラウドは大きな溜め息を零し、諦めたようにキッチンを後にすると眉を寄せてリビングのソファに寝転んだ。

 2人暮らしの家の中、あれほど大きなものを3日間も隠すのは確かに困難だ。
 料理の苦手なクラウドと得意なザックス。この家の中でオーブンはザックス専用と言っていいくらいザックスしか使わないというのもまた事実であり、通常ならクラウドはオーブンに近づきもしない。
 けれど、
「何か作ろうなんて、思わなけりゃよかった…」
 ミッションから帰ってくるザックスの為に、なにかひとつだけでも料理を作ってみようなどと思ったのが運のツキだった。
 まさかこんな簡単な所にクリスマスプレゼントが隠されているなんて思いもしなかったのだ。
 これを見てしまった以上、ザックスが楽しみにしているであろう『サンタからのプレゼント』に驚いてあげる自信がない。

「どうしよう。俺、絶対に顔に出る…」

 『その包み、知っています』とどうしても顔に出てしまう。
 それではザックスがガッカリしてしまう。それが申し訳なくて仕方がない。

「ちゃんと隠しとけよ。ザックスのばーか…」

 あんな大きなものじゃなくて、小さなものならもっと別の隠し場所があっただろうに。

「何買ったんだよ、あんな大きいの」

 両腕いっぱいになるであろう大きさの紙包み。それこそクッション並だった。
 あの中身は何だろう。洋服一式?もしかしてぬいぐるみ?
 何にしろ、きっとザックスのこと。クラウドを思ってウキウキとしながら用意した品だろう。その笑顔が容易に浮かぶからこそ心が痛む。

「俺だって、用意したんだぞ」

 ザックスの為にクラウドが買ったのは、小さなシルバーのチャームだった。
 隠し場所を探す必要も無いほど小さなそれは、今もクラウドのバッグにこっそりと入っている。
 ザックスのドッグタグに一緒に付けて欲しくて選んだチャーム。ザックスは喜んでくれるだろうか。

 思い描くのはパァっと花が咲いたように綻ぶザックスの笑顔だけ。
 喜んで欲しい。喜ぶ顔が見たい。それはザックスも一緒だろう。
「喜ぶ顔…見せてあげなきゃ…。よし!忘れよう!」
 クラウドは決心するとクッションに顔を埋め、必死に自分に暗示をかける。
「見てない、見てない…」
 オーブンの中には何もなかった。サンタは夜にやってくる。どんなプレゼントなんて分からない。大きさも知らない。
「忘れろ、忘れろ…」
 ザックスが帰ってくる夜までに全て無かったことにすればいいのだ。だたそれだけ。
 それだけでいい。

 な、はずなのに……



「ただいまー!クラウド!サンタはちゃんとやって来たぞ」
「お、…おかえり、ザックス」
 ミッション帰りのソルジャー服に赤の三角帽子、両手にデリバリーの袋を抱えて帰ってきた浮かれ男にクラウドは顔を引きつらせた。
「ザックスじゃない!」
「…分かったよ、サンタさん…」
「おうよ!」
 満面の笑顔で答えるザックスは真に心の底から楽しそうだ。
「ピザとチキン買ってきたんだ、食おうぜ!」
 背中のバスターソードを下ろすとそこに三角帽子を被せ、ウキウキとデリバリーをリビングに運んで行く。
 その後ろ姿は『手に取る』所が、『分からない奴にも分からせる』ほどのお祭りレベルだ。
「クラウドー、早く来いよ~!」
 その明るすぎる声にクラウドはちょっと泣きそうになった。

(どうしよう…、俺…っ)

 結局、記憶を消すなんて器用な真似はできなくて、思えば思うほどクラウドの眼にはあのプレゼントが鮮明に残ってしまった。
 この楽しさ全開のテンションのザックスからあのプレゼントを出されたら、きっと絶対に水を差してしまう。

(なんとかしなくちゃ…!)

 要はザックスから渡される前に、ウッカリ発見してしまう事故が起ればいいのだ。
 そうすればザックスをガッカリさせることなく、その場ですぐに貰える事が出来る。その流れで自分の分も渡せばいい。
 そう決心したクラウドの頭の回転は速かった。



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