■花と太陽と金色チョコボ 
02 もらえない言葉

 



 その夜は仲間達とセブンスヘブンに集まった。
 久々に全員揃った中で、一際華やかさを集めるのがエアリス、そしてお祭り男のザックスだ。
「エアリス、元気にしてた?」
「うん、みんなの頑張りずっと見てたよ」
「ユフィちゃん、大活躍だったでしょ!あたしがいれば悪い奴なんて一発よ!」
「へぇー、ならこれからは嘘メール無しで頼むぜ?美人ハンターさん」
「うっさい!あんたは私の子分!」
 ザックスは色々な所で皆と関わっていた。
 ティファとの再会から始まり、ユフィとは旧知の仲。ヴィンセントは眠る姿を見ていたし、シドの名も知っていた。
 セブンスヘブンの名付けまで、元はザックスだったのには皆が驚いた。

 エアリスが俺にメッセージを告げたように、皆にも帰るというメッセージは送られていたらしい。あの教会に集まった人々と同じように、いろいろな形で全員に。
 エアリスと繋がっていたのは俺だけじゃない、それは思えば当然の事なのだろうけれど、少し寂しく感じたのは俺がそれだけ我侭って事なんだろうか…。
「……」
 帰ってきたエアリスはもちろん、ザックスもすっかり打ち解けている。
 俺はその風景を不思議な気持ちで見ていた。
 もし、あの時に生き残ったのがザックスだったなら、もっと早くこんな景色が出来ていたのかもしれない。
 エアリスは死ななくて、皆、楽しく笑ってて…俺じゃなくてザックスだったなら…
 そんな事を考えていたら、パチンと両頬を挟まれた。我に返り視界の焦点を戻すと、目の前には難しい顔をしたザックス。
「こら。まーた余計な事考えてたろ?」
「余計な、ことって…」
「余計な事は余計な事だよ。見てりゃすぐに分かるっつーの」
 そういうとザックスは俺の腕を取り立ち上がらせ、皆に振り向く。
「悪ィ、クラウド借りるな。 エアリス、俺ちょっと出てくるけど、大丈夫か?」
「うん、みんないるから平気」
「分かった。何かあったらすぐ呼べよ?」
 ザックスはエアリスと簡単な会話を交わし、俺の腕を引いて店から出る。
「お、おい。どこへ」
「いいから、いいから」
「……」


 店を出ると夜の空気がひんやりと包んで来る。エッジはまだ夜までやっている店は少ない。セブンスヘブンから少し離れれば、あっという間に人影は無くなる。
 何だろう…なんだか哀しい。
 やっと会えたザックスに手を引かれて歩いているというのに、俺の気持ちは沈んでいくばかりだ。
 俺はエアリスからザックスが初恋の人だと聞いた。ザックスからはスラムの教会に天使がいると聞いた事がある。それぞれから話を少し聞いた事はあったが、目の前で2人でいる姿は見た事がなかった。
 ザックスとエアリスの会話は短い。なのに深く分かり合っている何かを感じる、それが、哀しい。
 ザックスとの距離が遠くて悲しいんだ。
「………」
 人気の無い狭い路地裏に入ると、ザックスは振り向かないまま俺の手を解放した。
 それだけの事なのに、それすらも寒い。
「あー、タバコ吸いてぇなー」
「え…?」
 突然、ザックスが大きな声でボヤキはじめる。
「タバコー、タバコー、どっかにねぇかなー」
 これみよがしのボヤキ方に、俺の頭は『?』だらけだ。
「ザックス…あの…」
 何?、と聞こうとした所で、突然どこからか小さな何かがザックス目掛けて飛んでくる。
「よっと」
 ザックスはそれを難なくキャッチすると、手の中のそれを見て、満足そうにニンマリと笑った。
「ほら、レノから」
 そう言って俺に見せた手の中にはタバコとライター。
「これ、レノのか?」
 レノが近くにいるのかと、辺りを見回したが何の気配もない。
「ああ、もういねぇよ。タークスは監視するターゲットに一度でも気付かれたら一旦退避するから。これで人払い完了」
 グッと親指を立てるアンタはつまり、人払いとタバコを同時に手に入れたわけだ。
 当たり前なのかもしれないけれど、神羅の頃から何も変わってない事が、なんか不思議だ。
「と、いうわけで。 ほい、クラウド」
 タバコをズボンのポケットに入れると、俺に両腕を広げてくる。
「?」
 一瞬、何のことか分からなくて首を傾げた。でも、ザックスは変わらず腕を広げたまま。


「お前、今も俺の腕の中じゃないと泣けないんだろ?」
「!!」
 そう言われて一気に顔が熱くなる。
 確かにひねくれもので意地っ張りな俺は、昔から母さん以外の人の前では泣けなくて、ザックスに会ってからは1人の時すら泣けなくなった。
 けれど、それをザックスが気がついてるなんて思いもしなかった。
「べ、別にそんな事はないし、今だって泣きたいわけじゃ…」
 とっさに出るのはいつも言い訳。でも、俯いて目を逸らす俺をザックスはふわりと抱きしめた。優しくて、大きな胸。
「安心しろ。幻でも夢でもなく、本当に帰ってきてる。お前と同じように生きて、大怪我や大事故にあえば死んでしまう普通の命だ」
 トントンと、赤ん坊をあやすように俺の背中を叩く。 俺の髪に頬をすり寄せて、髪を撫でて。
 俺の耳に聞こえてくるのはザックスの確かな鼓動。トクトクトクという生きてる鼓動。
「……っ、…」
 知らずのうちに涙が零れた。
「ぅ…、ぇ…」
 流れ出した涙はせきをきったように次から次へと溢れてきて、もう止まらない。
「ザック…ザックス…」
 ザックスの背に腕を回し、必死にしがみついて泣いた。
 悲しいのか嬉しいのか安心したのかなんて分からない。今だけの感情なのか、溜め込んでいた昔からの感情なのか、それすらも分からない。
 ただ、ここにザックスがいて、その暖かくて大きな腕に包まれたら、もうそれが全てで、それしか無くなった。
「ザックス、ザックス…」
 うなされて、その言葉しか知らないように何度も名前を呼んで、泣いて縋る。

 俺、今でもアンタが好きだ。
 だから言ってよ、ザックス。昔みたいに。
 腕の暖かさや力強さだけじゃなく、俺を好きだって、もう離さないって言葉にして欲しい、アンタから。

 弱くてズルい俺は自分から言葉にしない。今でも甘えきっているんだ、ザックスに。
 でも、どんなに待ってもザックスはその言葉をくれなかった。
 腕は離されなかったけれど、欲しい言葉はなかった。




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