■花と太陽と金色チョコボ 
01 ただいま

 

「何度目かな、母さんって言われたの」
「いいじゃないの、慕われて」

 2人の楽しそうな会話が聞こえた。
 穏やかなのが嬉しくて、だけど、何だか夫婦のように分かりあっているのが少し寂しかった。

「そう?じゃ、ホントに子供にしちゃう?」

 なんだよ、子供って…俺、2人の子供なんてイヤだ。
 そんな事を思ってたら、最後にエアリスの優しい声が聞こえた。

「…私たち、帰るね。クラウド」








               【花と太陽と金色チョコボ】





「っしゃー!全員飛び込めー!」
 シドの号令に歓喜した子供達が次々に泉の中へ飛び込んでくる。泳いだり、水しぶきをあげたり、潜ったりと教会は今までにないほどの賑やかさだ。
 でも、そんな喧騒も今の俺の耳には届かない。俺の目に映るのは…

―――…エアリス…

 教会の入り口にちょこんと立ち、イタズラっぽい笑顔を浮かべた懐かしい人。ピンクの服に、ピンクのリボンで結んだ栗色の髪、優しい翠の瞳は今も変わらない。
 エアリスはゆっくりと微笑む。
 そして唇が音の無い言葉を紡いだ。


『 た だ い ま 』


 …今、なんて…?


 俺の願望が起こした幻覚なのだろうか。脳が痺れたように頭が回らない。
 だけど、微笑む彼女の姿は変わらなくて、そしてそこに被さるように聞こてきたのは靴音。

 コツ、コツ、コツ、と聞き覚えのあるリズムの人物はエアリスの隣まで来ると、彼女の手を取り俺の方へ向かって来る。

―――…ザッ

「電話のお姉ちゃん!お兄ちゃん!遊んで!」
 突然の子供の声にハッと我に返ると、喧騒が戻った。途端に返るのは子供達の歓声と水しぶき。
「クラウド、クラウド。ねー遊ぼう」
「いや…俺はいいから…」
 俺の手を引く子供に戸惑っていると、後ろから大きな手でくしゃりと頭を撫でられた。
「……!」
 その人物はそのまま俺の後ろを通って子供達の輪の中へ入って行く。
「……」
 誰かなんて分かってる。忘れるワケがない大きな手、その重み。


―――…ザックス…


 だけど、俺は怖くて振り返れずに俯いたまま。
 少し離れた所ではザックスが子供達と遊び始めたらしく、さらに歓声があがっていった。
「クラウド。大丈夫?」
 ティファの心配する声に顔を上げると、いつのまにかティファの隣にエアリスが立っていた。ティファの腕には、エアリスがじゃれるように手を回している。
「クラウドも行ってくれば?」
 俺の後方…ザックスの方向を指さして背中を押すように笑う。
 チラリと後方を視界に入れると、ザックスはどうやら子供達を一人一人抱き上げては水中に放り投げて遊んでいるらしい。
 子供に合わせて加減しているらしく、大人気だ。
「いや、俺は…」
 俺には無理そうな遊び方に退散をしようと泉を上がろうとした途端、エアリスがザックスに声をかけた。
「ザックスー!クラウドもやるって!」
「おぅ!クラウド、来いよ!」
 よく通るエアリスの明るい声と、ザックスの声が教会に響き、俺の鼓動が跳ねる。
 返事した…返事をしたザックスが。ザックスの声だ!
 会話の内容よりもそっちの方にドキマギしてオロオロとする俺の腕を、後ろから大きな手が引き寄せた。
「いや、俺にはムリ…!」
 あんな遊び方は出来そうにないと断ろうとしたら、腰を掴まれ、突然視界が上がる。
「?!」
 驚いて目を見開けば、俺がザックスに高い高いをされている。
 やるって…こっち側の事か?!
「バッ…!!は、離せ!」
 人前でされる子供扱いが恥ずかしくて、顔が熱くなる。だけど、勢いで見下ろした先にはザックスの笑顔があった。
「やっと、俺を見たな」
「…!」
「なんで俺を見ないんだよ?エアリスは見るくせに」
 ザックスだ…。ザックスがいる。
 変わらない端正な顔、変わらない黒い髪、変わらない澄んだ蒼い瞳、変わらない明るい声。
「………」
 ザックスだ。
 それだけど頭の中がいっぱいになって、何か言おうとしても声が出ない。泣きそうな気分になり、唇を噛んで俯いた。こんな人前で泣きたくない。
「…行くぜ、クラウド?」
「え?、うわっ!」
 ザックスが俺を掴んだまま後ろへ倒れる。
「バカ!バッ…!」
 周囲の大歓声の中、2人揃って盛大に水しぶきを上げながら水中に落ちた。
 上も下も分からない水の中で、慌ててもがく俺の唇を、フト何かを掠めた気がした。



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