■ candid shot 
04 プリティジェラシー

 

「俺が…、あの店に…行ったんだ…。新しい店で、いいアクセサリーがあるからって聞いたから…」
「…それで?」
 クラウドが自分を責めながら紡ぐ言葉に、ザックスは隣に座り耳を傾けながら金の髪を撫でた。
「そこに、あのミリナって子がいて…、すごく接客が上手で、なんだか話しやすくて…」
「うん」
「それで…つい言っちゃったんだ。ザックスの誕生日のプレゼントを買いに来たって」
「うん」
 有名人のザックスの誕生日自体は隠し事ではない。だが、問題はそこからだった。
「そしたらその子…急に顔つきが変わってさ…『ザックスの友達なの?』って聞かれて『うん』って答えたら…そこからいろいろ聞かれて…俺、どうしたらいいか分からなくなって……」
「そっか。クラウドは苦手だもんなそういうの」
『ザックスの親友』というステータスはクラウドの自慢のひとつだ。だからそこまではいい。が、それ以上の深い話となるとクラウドは口が重くなる。
 ザックスと深い関係なのを知られるのが嫌なのではなく、それをからかわれたり、冷やかされたり、好奇心で見られるのが耐えられないのだ。
 だがそのことがまた、堂々としていられるザックスに対しての罪悪感にもなり、クラウドを苛ませててしまう悪循環になっていた。
 だからこそザックスはクラウドとの事は本当に信用できる人間にしか打ち明けていなかった。
「……それでその子に、『あたし今、ザックスといい感じなんだけど、ザックスって他に彼女いる?』って聞かれて…」
「いないって答えた?」
「……ごめんなさい…」
「なるほどね。そういうわけだったか」
 いるかいないかを問われれば、ザックスは決してその存在を否定する答え方はしない。
 が、逃げ腰のクラウドにはどうしてもそれが出来なかった。
 その結果、ミリナの後押しをすることになり、自信満々になった彼女のプライドを崩すことになり、そして昼間起こった展開になってしまったのだ。
「おの時俺が…ちゃんと答えてれば…」
「いいよ。気にすんなよ。苦手な事は誰だってあるさ」
「でも」
 やっと顔をあげたものの、その表情は後悔に苛まれたままのクラウドに、ザックスはニッカリと笑う。
「大丈夫だって。そりゃあ俺だって女の子に恥をかかせんのは良くないとは思うぜ?けどさ、彼女『たらしを懲らしめた高貴な女』として名をあげてるらしい。結果オーライならOK!」
 な?と親指と人差し指を丸めてサインを出すザックスに、クラウドは眉尻を下げた。
「ザックスはたらしなんかじゃ…」
「お。クラウドはそこツッコンでくれる?!やっぱ、いい子だなー、クラウドは!」
 じゃれるように抱きつき、何度も頭を撫でてクラウドの髪をくしゃくしゃにする。
「い、いたいってば…ザックス…ッ」
「いい子~、いい子~!」
「や、やめろってば…っ」
「いい子~!」
「ヤダ…って!」
 しつこいくらいのはしゃぎっぷりに、クラウドの声も少しずつ張りを戻し始める。
 いつもこうやって、落ち込むクラウドを負担を与えることなく励ましてくれるのだ、ザックスは。
 その心遣いが温かくて、クラウドには少しだけ悔しい。
「なんだよ、ザックスのバカ…!」
 ザックスだって嫌な思いをしたはずのに、そこには何も触れることなく終わらせようとするザックスが優しくて暖かくて、少しだけ悔しかった。



「なぁ、クラウド。そのプレゼント、俺のだろ?」
 クラウドが元気を取り戻し、落ち着き始めた頃、ザックスはクラウドがずっと握っていた包みを指差し、「頂戴」と手を広げる。
 質屋からの情報とクラウドの話によれば、それはザックスへのプレゼントのアクセサリーに間違いはないのだが…
「駄目」
 クラウドの即答にザックスの顔が歪んだ。
「え?なんで?」
「これ、あの子の店で買ったバングルなんだ。名前も入れてもらった。ZACKって。」
「名前入り?なら尚更俺のだろ?」
「だから駄目」
「だから、なんで?!」
 ブレない返事にザックスが問い詰めると、答えを言いづらそうにクラウドの眉が寄った。やがて、困ったように視線を逸らせると、聞こえるかどうかの小さな声でポツリと呟く。
「………名前彫ったの…あの子だから……」
「……は?」
「……そんなの…ザックスに身につけて欲しくない」
「……」
 つまりそれは…
「クラウド…。もしかして、ヤキモチ?」
「……ふん」
 頬を染めてプイッと、そっぽを向いたクラウドにザックスの足先から頭へ電流が湧き上がり、まるで何かが弾けるように笑顔が綻んだ。
「かっ!かわいい!!クラウド、可愛い!!」
 満面な笑顔で座った階段から転げ落ちそうな勢いで強く抱きつくと、嬉しさを抑えきれないとばかりに激しく左右にゆすった。
「うわ!危ない…!落ちるっ、落ちるっ」
 そのザックスの激しすぎる喜びようにクラウドは目を回し、顔を真っ赤に染める。
「俺もう最っ高に幸せ!な、クラウド!家に帰ろ!今すぐ帰ろう!」
「な、なんで」
「キスしたい!」
「は?!」
「すぐにしたい。だから帰ろう、クラウド」
 そして振り回すのがやっと終わったかと思えば、今度はクラウドを優しく包んだままコツンと小さく額を合わせた。
「一緒に帰ろ。クラウド」
「……っ」
 落ち着いたトーンに変わったザックスの声に、クラウドの鼓動は小さく跳ねた。
 ほんの数センチという近い距離。顔を見ずとも分かるザックスの優しくて頼もしい表情に、クラウドの耳は赤く染まった。
 いつだってそうだ…。
 はしゃいでいたかと思えば、まるでスイッチが入ったみたいに突然真面目になる。
 いったいどれが本当なのか分からなくなるほど、ザックスの行動はギャップがあり、いつもクラウドを振り回す。
 けれど…
 クラウドはそのどのザックスも好きなのだから、文句も言いようもない…


「そんなにしたいなら……ここですればいいだろ…」
 もはや隠すことも出来ない赤い耳をそのままに、クラウドは小さくポツリと呟く。
「いいの?誰かに撮られちゃうかもしれないぜ?」
「…あの子に負けたくない…」
「負け…?」
「だって…」
 一瞬何のことか分からず首を傾げたザックスに、クラウドは小さく唇を噛む。
「ちょっとだけ…悔しかったから…」
 他人に好き勝手言われてイジられるのは苦手だった。だから当然、隠し撮りをされるのはクラウドの許容量を越える。
 けれど、その隠し撮りのおかげで仮にもあの子は一瞬でも『ザックスの彼女』として大勢の人に認識された。
 それが悔しい…と思ってしまうのは、クラウドの中での矛盾でもあり、ザックスへの独占欲だ。
「………隠し撮りも悪いことばかりじゃねーな」
「え?」
「いや、なんでも」
「なんでもってこと……っ」
 何かを言い出そうとしていたクラウドを引き寄せると、そのまま唇で唇を塞ぐ。
 ほんの少しだけ肩が小さく揺れた後、クラウドはそのまま素直にザックスの腕の中に納まっていった。



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