■ 三日月の島 02 |
朝になり太陽が昇る。 夕日が水平線に沈むのが見えるこの島の浜からは朝日を見る事は出来ない。セフィロスはまだ動かない。 俺が眠りについた時から空の色以外は何も変わっていなくて、俺は空がどんどん青くなって行く光景をただボーーっと、眺めている事しか出来なかった。 っていうか…、 まだ動かねぇのかよ!このオッサンは!! 「だーーーーーーッ!!もう、いいかげんにしろっ!!」 ガバリとセフィロス枕から起き上がり、今でも動かないセフィロスの周囲の砂をかき集め始めた。 怒った。 怒ったんだ。 もういいかげん怒ったんだぞ、俺は! 「そっちがその気なら俺だって好きなようにするからな!」 そして次々とかき集めた砂をセフィロスの上にかける。 埋めてやる。 埋めてやるんだ、頭だけ残して。バカンスのビーチによくいる奴らがやるみたいにカッコ悪いデブボディを作って遊んでやる。そんで、 「ビックリするくらい恥かしい巨乳を作ってやるからな!」 見てろよ!セフィロス! せっせせっせと砂をかき集めてみても、なかなかセフィロスは埋まらない。 くっそぅ、さすがに背がデカイだけはあるな。 でもどうせ時間はあるんだ、他にする事もないし、かまうもんか。 砂を集めては両手いっぱいにすくい、セフィロスの黒い服にかけていく。 腕にかけ、腹にもかける。厚い胸板にもかけてみたけど、ボロボロと落ちる砂の量の方が多くて全くかけがえが無い。 「脇を先に埋めた方がいいのか?でもそれだとかけてる気がしねぇし…うーん…とりあえず足から先にやるか」 作戦を変更して足から先に埋めてみる。 サイズのデカい足は簡単には埋まらないだろうけど、くるぶし辺りはすぐに埋まるはず。 そうやってせっせと砂でブーツを覆い隠し始めた頃、突然セフィロスの膝が立ち砂のドームが一気に壊れた。 「ああ!せっかく埋めたのに動くなっ…!って………え?」 動いた???? 一瞬、ワケが分からなくなって俺の手が止まる。すると、ゆっくりと視界の端に黒い壁が出来た。 上半身を起こしたセフィロスだ。 「動けと言ったり、動くなと言ったり、いったいどっちなんだ」 「…せ…せふぃろす…?」 「夜は気弱なくせに、朝になると元気だな、お前は」 「……」 そう言いながら、まるで何もなかったような真顔で服の中に入った砂を叩く。ポンポンと、鬱陶しそうに。 ポンポンと…。 ポンポン… …プチッ 俺の中で、何かがキレた音がした。 「ふ…っざけんなーーーッ!!」 セフィロスの胸倉をわし掴みし、砂の上に思いっきり押し倒して腹の上に馬乗りになった。勢いが良すぎてセフィロスが頭を打ったかもしれないけれど、そんなの構うもんか! 「アンタ、今まで何してた!!さんざん人のこと無視しておいて、何だよ、その言い草!!」 ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな! 夜は気弱で、朝は元気だと?! 当たり前だ!俺がどれだけ心配してどれだけ『明日』に希望を繋げて待ったと思うんだ! 心配して、心配しすぎて怒って、それに疲れて弱くなって。毎日毎日その繰り返し。 アンタといるのに全然居る気になれなくて、一分一秒がやけに長くて、もうどうしたらいいのか分からなくて…! だけど、何を言っても返事も無くて! 「俺がどんな気持ちでいたと思ってんだ!アンタはただ寝てただけかもしれないけど、俺は!俺は…ッ!!」 怒っているのに、腹が立っているのに、何故か目頭がジンと熱くなる。 そんな俺にセフィロスは手を伸ばすと、俺の頬をそっと覆った。 「…すまなかった」 「…ぅ…」 落ち着いた声を聞いただけなのに、俺の顔はくしゃりとなる。 ああ、ちくしょう…泣いたりなんかしないからな。理由を聞くまで許したりしないんだからな。 絶対に許したりなんか…! 「許してくれ、ザックス」 「……っ…」 どんなことを思っていても、セフィロスに抱き寄せられればすんなりと俺の頭は落ちてしまう。 どうしようもない俺…。 でも今は、やっとこっちを向いてくれたアンタに、どうしても触れたいから… 「心配をかけた」 「バカヤロ…」 悔しいくらい涙声になっている俺の頭をセフィロスはゆっくりと何度も撫でる。 分かってんならもっと早くなんとかしろよとか、もっとちゃんと謝れとかいろんなことも思ったけれど… 今はただ、俺の頭を何度も撫でながら抱きしめてくるセフィロスに、どうしようもない安堵感を感じていた。 |
01 ←back ◇ next→ 03 |