■ 三日月の島 01 |
オレンジ色の太陽が水平線に近づく。 「綺麗だなー」 海に沈んで行く夕日が好きだ。 鮮やかなオレンジ色の光が水平線に近づいて、青い海面が鏡みたいに光を反射する。 真夏のギンギンに元気な太陽や、天使の来光みたいに爽やかな朝日も好きだけど、静かに音も無く沈んで行く夕日はまた格別だなって思うんだ。 「ほら、セフィロス。見てみろよ」 なんていうのかなー…。あっという間に終わるのがまた少し切なくってさ、見ないのは損って気になるんだ。 何故だかどんな戦場でも誰もが一瞬手を休めちまう。そんな不思議な魅力があると思う。 「なぁ、見ないと終わっちゃうぜ?」 空と海の一面をオレンジ色にしたかと思うと、それは突然ひとつになって一段と大きな太陽になる。 俺は慌ててパタパタと隣の黒いコートを叩いた。 「あ、ほら!昨日言ったやつ!今日も見れるかも!チャンスだぜ!」 だけど、俺のテンションとは裏腹に、その光は途端に空から消え始めあっという間に太陽は小さくなって行く。 「ほらほら!セフィロス!はやくはやく!」 それはまるで瞬く間に萎んで行く線香花火の火種みたいに小さくなってくんだ。 あああ、太陽ってこんなに早く動いていたっけ? 「あー!ああ~!」 隣で全く微動だにしないまま眠るおっさんの腕を何度叩いても、その甲斐はなく…。小さくなった太陽はほんの一瞬だけ緑色を見せた直後、紺色の海の中へ沈んで行った。 「…あーあ…、せっかく今日も見れたのに…」 貴重な天体ショーが終われば、たちまち夜は暮れ辺りの気温は下がりだす。 「知ってるか?あれ、グリーンフラッシュって言って結構ありがたいもんなんだぜ?」 仕方なく、辺りから集めた木片で作った焚き火に、今日も火を灯した。 すると、俺の顔と砂浜に突き立てたバスターソードと正宗、それに目を瞑ったままのセフィロスの顔が焚き火の火に照らされ出す。まるで、夕日に反射していた海面みたいに。 「こんだけ毎日見られるのに、それを無視するなんてアンタは贅沢だよ。なぁ、聞いてる?」 火を炊くのは寒いからじゃない。ソルジャーの身体なんだ、これくらいの寒さは寒いうちにも入らない。 この火は合図だ。 俺達がここにいるといういつか来るだろう救助隊への合図。 俺達の遭難場所を示す合図だった。 「―――なぁ…、そろそろ何とか言ってくれよ…」 ―――しばらく放っておいてくれ――― この島に上陸した後、そう言って寝転んだきりピクリとも動かなくなったセフィロスの顔を見下ろして俺はどんどん心細くなっていく。 「なぁ…セフィロス…」 変わらずに鳴るのは定期的に打ち寄せる波の音だけ。 星の瞬きさえ聞こえてきそうなほど静かなこの島で、この4日間、ずっと目を覚ましているのは俺一人だけだった。 あれは5日前のこと。 長距離飛行が可能な小型飛空挺の自動操縦機能テスト。 そんな面白いものを見逃す手は無いと、俺とセフィロスは周囲の反対を押し切り2人きりで乗り込んだ。 離陸と着陸さえ自分達がやれば、あとは完全なオートパイロット。操縦桿すら握らなくていいだなんてまさに楽勝!極楽な空の旅の始まり、はじまり~! …なんて、すっかり舐めてかかったのが甘かった。 巡航進路に忠実なオートパイロットには融通なんてものはきかず、ましてや飛行系モンスターからの攻撃回避なんて応用機能はついていなかったんだ。 「グリフォンだ!」 「邪魔だな。さっさと落とすぞ、ザックス」 「おう!」 さらにそのモンスターを落とそうと2人して機体の上に飛び出しちまったのが運のツキ。 「兵隊さん!機体を右に旋回…って、…え?」 「……」 「「あ」」 いつもはいる操縦士の兵が今回はいないのをすっかり忘れていたバカ2人。 小型飛空挺はモンスターの攻撃を避ける事もなくアッサリと迎撃され、俺達はもろとも大海原に落下した。 信じられるか? 撃墜だぜ?撃墜。 世界に名を轟かせるミッドガルのクラス1stが2人揃っていながら、たががグリフォン1匹に撃墜。そして漂流だ。 携帯も海の中に落としたし、当然ながら機体に装備されていたあらゆる機器も海の底。当たり前だけど、ミッドガルへの通信も不能。 ま、俺達があえて連絡しなくても消息が不明になれば向こうも気がつくからいいけどな。 それに、俺達もバスターソードと正宗さえ無事ならそれでいいんだ。 マテリアも装備してるし2人一緒だし、なによりソルジャーの身体はこんな事でどうにかなるもんでもない。ホント、ソルジャーって便利だよな。 そんなわけで海流を利用しながら一番近くの島へ上陸したのが4日前。 そこは火山の噴火口の半分が水没したような、三日月の形をした島だった。小さめながらもちゃんと森があり水がある。 三日月の外側にあたる面は断崖だけど内側はなだらかな浜になっていて、その地帯は暖かな海水に恵まれて熱帯魚や沢山のサンゴ礁が広がっていた。 モンスターの気配も無い。 コスタのような整備をされた場所とはまた違う、まさに自然の楽園。そんな場所だった。 ラッキー!ここなら楽に救助を待てる!俺はそう思ったのに、 ―――しばらく放っておいてくれ――― そう一言だけ残し、セフィロスは突然浜に寝転んだままピクリとも動かなくなってしまった。 「なぁ…セフィロス…なぁってば」 動かないセフィロスを枕代わりに寝転んで、ちょっとばかり甘えた声をだして見る。 「……」 けど無反応。 …ちぇ。 退屈なんだよな、一人だと。 突然ピクリとも動かなくなったセフィロスに、もちろん最初は心配もしたさ。 どこかに怪我でもしたのかとか、具合が悪くなっているのかとか。無駄にケアルやエスナもかけてみたりした。 でも、セフィロスは何ともないんだ。鼓動もしっかりしてるし、故障もない。 つまり、ただ本当に動かないだけなんだ…自分の意思で。 理由は分からないけれど。 「はぁー…」 重いため息をついて星空を見上げた。 空一面に広がる星は今にも落ちてきそうなくらい本当に綺麗で、思わず手を伸ばしてギュッと握る。 もちろんそれで掴めるはずもないんだけどさ…。 こんなに近くに見えるのに何も掴めない。まるで今のセフィロスみたいだと思うと、ちょっと泣きたくなった。 「俺達2人しかいねぇのに、反応もしてくれねぇってヒドくね?」 どんなにボヤいても返ってくるのは打ち寄せる波の音だけで、どうしようもなく切なくなってくる。 いいかげん腹が減れば動くだろうと思っても、1ヶ月飲まず食わずでも戦闘が可能なソルジャーの身体ではそれもアテにはならない。 便利と厄介は紙一重なのかもな。ヤレヤレだ。 なぁ…。 いつになったら起きてくれる? 明日になったら気が変わってくれる? 何がしたいんだよ、ちゃんと話せよ。俺に理解させろよ。 ゆっくりとした呼吸で上下するセフィロスの胸に耳をあて、目を閉じてトクントクンと動く規則的に動く鼓動に耳を澄ませた。 …それでも居ないよりはずっといい、…か。 …なんてさ、悲しい事を思わせるな。ハードル下げすぎだ。 トクントクンと動くセフィロスの鼓動と波の音がいつしか混じってひとつの音になる。 俺はずっと動かないセフィロスに擦り寄ったまま、いつしか眠りの中に落ちていた。 |
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