■ 君の好きなもの 
02 

 

「ザックス、これは何だ?」

 その晩、ザックスが待つ家に帰ったセフィロスは、リビングのテーブルの上に置いてある見慣れないものに首を傾げた。
「今日、偶然見つけた店で買ってきたんだ。へへっ、いったいなんでしょ~?」
 セフィロスが分からない事に機嫌を良くしたザックスが、夕飯作りに使うお玉を楽しそうにクルリと回す。
「ひとつ目のヒントは『食事時に使ってみようかと思っているもの』。んー、ちょっと難しいかな?」
「食事時?」
「うん」
「ふむ…」
 食事時にという事は食器の類だろうかと、セフィロスはソファに座りその謎の品を手に取って観察を始まる。
「…軽いな」
 それは手の平程の長さのスティックに丸いガラスで出来た珠が付いた不思議なものだった。
 ガラスの珠は中心部が翡翠色をしているがその周囲は透明で、その透明な部分には銀箔が天の川のように散りばめられている。綺麗であることは確かだが、そのデザインに意味は無さそうに見える。
 となれば意味があるのは細い棒の方か?と、スティックを回してみるが、刃らしきものは無くマドラー程度の強度しか感じない。
「マドラーか?」
「ブブー!ハズレ!じゃ、次のヒントな?」
「…まだやるのか」
 嬉しそうにバズレの効果音を言うあたり、ザックスには正解を言う気はないらしい。
 分からない事ならばさっさと正解を知りたいセフィロスだったが、ザックスがこのクイズを楽しんでいる以上、これはザックスにつき合わざるを得ないと溜め息を吐いた。

「次のヒントは、んー、そうだなー…『使うのは俺じゃなくてセフィロス』」
「俺か?」
「うん、そう。さて、なーんだ?」
 自分が使うものと聞いて、セフィロスはますます頭を捻った。
 使い方が分からないものを自分が使うとは思えない。
「どうやって使うんだ?」
 形に意味があるのかとテーブルの上に転がしてみたり、硝子玉を中心に回転させてみたりもした。指先に挟んで振ってもみたが、これといった変化も発見も無い。
 強いて言えば、以前アンジールの所で見た箸に似ている。が、箸は確か2本でひとつだったはずだ。
「箸…ではないな?」
「あ、ちょっとだけ近づいた。文化の方向はそっち」
「文化の方向?」
「ちなみに、使い方は『挿す』な?」
「挿す?」
 ますます何の事だか分からなくなり、セフィロスの眉間に皺が寄る。
「ザックス。いい加減にしてくれ。いったいこれは何だ!」
「あーはいはい。やっぱ難しすぎるよな、それ」
 不機嫌の一歩手前の声をあげるセフィロスにクイズ遊びの限界を感じたザックスは、ひょっこりとキッチンから顔を出しとことことセフィロスに寄っていった。

「実は俺も今日初めて見たんだ。でも、ひとめで気に入っちゃってさ。使い方を聞いたら、セフィロスにいいかもって思って買ったんだよ」
 そのままセフィロスの手にしていたソレを受け取ると、ニッコリと笑う。
「『簪』って言うんだって、コレ」
「かんざし?」
「うん。髪を纏めるものなんだって。セフィロスは食事の時、時々髪がかかって邪魔そうにしてるだろ?だからこれで纏めればいいんじゃないかと思って」
 言いながらセフィロスの後ろに回ると、ザックスは長い白銀の髪に手の中に纏める。
「使い方もちゃんと教わってきたんだぜ?確かこうやって…」
 そのまま数回髪をクルクルと捻ってあげると、店員に教わった通りに髪の束のポイントに沿って簪を挿しそっと手を離す。
 すると、髪の根元の束だけを留め、サラサラとした髪は見事にスティック1本でそこに纏まった。
「出来た! どう?頭のどこか痛かったりする?」
「いや? 特に気にはならないな」
 髪が攣れることも無ければ、特に重くなるわけでもない。程よく根元だけがまとまっているので、長い毛先もこれなら食事の邪魔にはならなそうだ。
「やった!ならこれで決まり!これからはこうしようぜ?俺、毎回やってあげるから」
 セフィロスよりもザックスの方が御満悦といった顔で、ニッコリと嬉しそうに笑う。

 事実、セフィロスの髪に差し込まれた翡翠と銀箔のトンボ玉の簪は、銀色の糸の中でキラキラと輝く小さな星のようで本当に綺麗だった。
 ザックスが好きなセフィロスの銀の髪。そこに自分が選んだものがあるのは実に気持ちがいい。
「青いのとどっちにしようか悩んだんだけどさ、このトンボ玉で正解だったな」
「青もあるのか?」
「うん。マリンブルーみたいな青でさ、あれも相当綺麗だった」
 店でザックスの目を惹いたのは青と翡翠のトンボ玉の簪。色違いのそれはどちらもザックスは気に入るものだったが、セフィロスが気に入るかどうか分からなかったため、今回はよりセフィロスに似合いそうな翡翠の色だけを選んできた。
「でもこうして使えるのなら、やっぱり両方買っておいても良かったかもなー。気分で使い分けるとかさ。セフィロスならどっち似合いそうだし」
 手作りの商品な為、一度売れてしまったら同じものは手に入らない。
 ほんの少しの心残りにザックスが残念そうに呟くとセフィロスは髪を纏めていた簪を取り、スクッと立ち上がった。
「買いに行こう」
「え?」
 思いも寄らない返事にザックスの目がキョトンと見開く。
「お前は気に入っていたのだろう?」
「う、うんまぁ、そうだけど…」
「ならば、この家に置け。行くぞ」
「はぁ?!」
 言うやいなや、呆気に囚われているザックスを肩に担ぎあげ玄関へと向かった。



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