■ 君の好きなもの 
03 

 

「ちょっ!ちょっと!ちょーーーっと待って!今から?!」

 セフィロスの突然の行動にそのままにさせてなるものかと、ザックスはリビングのドアの壁にしがみつく。
 まだ料理の途中なのだ。もうすぐ完成もするし、火もまだついている。断固としてこのまま出かけるワケには行かない。
 が、料理などというものをした事が無いセフィロスには、そんな概念は頭の片隅にも無かった。
「当然だ。もし誰かに先を越されて買われたらどうする」
「そうだけど!でもそこまでしなくたって…ッ」
「『自分の家なんだから自分の好きなものでいっぱいにしろ』と言ったのはお前だろう?」
「…は?」
 再びザックスの目はキョトンと見開く。
 それはザックスが初めてこの家に来た日に言ったことであり、今でもずっと思い、そうなるように日々努力をしていることだ。だがそれは…
「でもそれは…『セフィロスが好きなものを』って意味であって、『俺が好きなもの』って事じゃ無いんだけど…」
 セフィロスの家なのだから、セフィロスの好きなものでいっぱいにして、セフィロスが楽になれる場所になればいい。
 そのためにザックスは日頃からセフィロスが好きそうなものを考えて集めたり、好きそうな料理を作る努力をしているのだから。

 が、そんなザックスの疑問をセフィロスはいとも簡単にひっくり返す。
「俺が好きなものはお前の笑顔だ」
「…は?!」
「だから、お前が笑顔になるものでいっぱいにしたい」
「……」
「お前が気に入ったものなら全て買う」
 その答えにザックスの鼓動がトクリと跳ね、頬が桜色に染まる。
「だから買いに行こう、ザックス」
「……いよ…」
「なんだ?」
「そんなん…ズルい…」
 ズルズルとしがみついていた壁から手を離し、真っ赤になった顔を両手で隠す。
「ザックス?」
 セフィロスは大人しくなったザックスを下ろすと、その顔を覗き込んだ。
「? どうした?」
 本当にどうしたか分からないような表情で顔を覗き込まれ、ザックスの顔はますます赤くなる。
「そんなこと言われたら…俺、嫌だなんて言えないだろ…? 俺はアンタが好きなものをって思ってんのに…ッ」
「?だからそれはお前だと…」
「それがズルいって言ってんの!」
「?」
 セフィロスが好きでセフィロスのためになるようにと、ザックスは毎日一生懸命に考えている。なのに、それ以上の愛情で包まれてしまったら嬉しくて幸せで、どうしても甘えたくなってしまう。
 自分よりもセフィロスを大事にしたいと、心から願っているのに、甘えて自分が楽になる誘惑に駆られてしまう。
 そんなジレンマに目を潤ませ、顔を真っ赤にして食って掛かるザックスにセフィロスは目尻をさげて笑うと、愛しそうにその腕の中に抱きしめた。
「お前が何に怒っているのかは分からないが…そういう顔も悪くないな」
「…!何言って…!」
 ボン!という爆発音でも聞こえてきそうなほどザックスの顔が赤くなり、瞬く間にそれが全身に広がっていく。
「すぐに抱きたくなるような、可愛い顔だ」
「…バッ!…!!」
「抱いてもいいか?ザックス」
「~~~ッ!!」
「好きだ」
「…っっ」
 言いながらザックスの熱く火照った耳元に小さく甘い口付けを落とす。その冷たく柔らかい唇の感触にザックスの全身はピクリを揺れた。
「…ぅ」
 セフィロスはどんな恥ずかしいこともサラリと簡単にやってのける。
 その破壊力はまだ経験の浅いザックスには刺激が強く、瞬く間に腰を直撃するのだ。
「……も、ムリ……立てない…」
 力の入らなくなった腰がどうにも出来ず、セフィロスの腕の中でフニャフニャになったザックスは力の無い声でギブアップする。
 そんなザックスを抱き上げると、セフィロスは満足そうに口角をあげた。

「買物は明日だな」
「…お店には電話しとくよ…取っといてもらうように…するから…」
「そうしてくれ。…食事は後でいいか?」
「ん…ぁ、ダメ!先!まだ火がついてんの!行くのはキッチン!」
 寝室に足先を向けたセフィロスの背を必死に叩き、ザックスは最後の抵抗を試みた。
「放っておけば消える」
「ダメ!火が通りすぎると食感が悪くなるってアンジールが言ってた!だから絶対にダメ!」
 アンジールめ余計な事を…と、さも言いたげにセフィロスは不服そうに口を曲げた。が、そこは言葉を飲んでそのままザックスをキッチンへと運ぶ。


「立てないのに夕飯の支度が出来るのか?」
「セフィロスが運んでくれればへーき」
「俺はお前以外のものは運ばんぞ?」
「じゃ、セフィロスは俺を運んでくれよ。俺が食器持つから」

 ほら名案!と笑うザックスの笑顔に、セフィロスもまた吊られて微笑む。

「いいだろう。ただし、この運送代は高くつくぞ?」
「高くって?」
「距離に応じて後で啼いてもらう」
「うそ?!…うわっ!止めろよワザとウロウロすんの!」
「キッチンはこっちだな」
「逆!そっちは寝室!わざとボケんなっ、この悪徳運送!」

 勝手なルールを作りわざと無駄に歩くセフィロスと、文句を言いながらも決して降りようとはしないザックス。
 無邪気にはしゃぐ2人の食事は早々に済むか、もしくは、結局は本当に後回しになりそうだった。








end.




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