■ Be My Valentine 
02 

 

「うぉ! なんだこりゃ」
 その大通りで目にしたのは、さきほどとは打って変わって人!人!人! もちろん、どれも女の子。
 その子達が、大勢できゃあきゃあ言いながら店の商品を物色したり、髪やメイクを気にしたり、何かつけたりしてる。
 そしてそんな女の子達がトロンとした目付きで見上げているポスターには―――

『バレンタイン限定発売、セフィロスシリーズ。セフィロスの香り』

 でたーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

 でるも出たり! ピンクとショコラ色のスーツを着たセフィロスが、恐ろしく魔性な微笑みをまっすぐに向けているデカデカポスターが、まるで教祖のように君臨してる。なにこれ、この表情どうやって撮ったんだよ。ダンナは他の奴の前でこんな表情しないぞ、絶対に加工だろ。
 人だかりに埋もれてよく見えないけど、どうやら化粧品シリーズの広告らしい。このポスターで『セフィロスの香り』とか言われたら、そりゃ女の子は食いつくだろ。しかもバレンタイン限定。女の子は絶対にこういうのが好きだ。
 さらによく見ればポスターの種類はこれだけじゃない。

『愛しい君こそが、最高級のチョコレート』
『食べきれないチョコよりも、甘いキスを何度でも』
『チョコよりも滑らかで甘い、君の肌』

 いくつもの顔から火が出そうなキャッチコピーと、それぞれに異なるセフィロスの写真。そしてよく見ると、だんだん服を脱いでいってる。最初は上着を、次はベストを、そしてシャツのボタン。それは明らかに意図のある主旨で…
「…ぅわ、エロ…」
 肌蹴た胸元はソルジャーの時のそれと同じだというのに、コートがシャツになっただけで沸き立つような匂いを感じるのは何故なんだろう。ああもう、くらくらする。
 そんな俺が見てもちょっと腰にキそうなそれらのポスターの傍らには、あからさまな購買意欲を掻き立てる企画も用意されていた。

 『セフィロス様にバレンタインのキスを送ろう! 40,000ギル以上お買い上げで、キスマークカードを一枚進呈。チョコを送るよりも確実にセフィロス様に届きます!』
 『無くなり次第終了! 70,000ギル以上お買い上げで、ハズレ無しのバレンタイン限定セフィロス様くじ』

 あー…買うな…、うん、こりゃ買うね、みんな。
 確実に届くとか言われたら、そっち取るよね。つか、セフィロスくじってなんだよ、俺でも気になる。
 こんなの見たら、ほんとチョコなんて買ってる場合じゃないだろう。セフィロスに自分のキスマークを確実に送れて、さらに自分もグッズやら化粧品やらが手に入るんだ、まさに一石三鳥。
 女の子ってそういうお得なの大好きだよな。バレンタインチョコ人口が全部こっちに来たのも分かる。
「あのキスマークカード、ほんとに来んのかな…」
 執務室にここにいる女の子の数以上のセフィロスへのキスマークが届くのかと思うと、なんともいたたまれない気持ちになった。しかも、それを整理するのはきっと俺だ。ブルーこの上ない。
「はー……帰ろ」
 今日最高の重い溜息を吐くと、沢山の紙袋と重苦しい気分を抱え、トボトボと帰路についた。
 



01 ←back ◇ next→ 03





inserted by FC2 system