■ 12月25日 
02 

 

 ザックスの気配はリビングからしていた。ソファに1人で大人しく座っているらしく、他に物音がしない。
(何もしていないのか?)
 常に何かをしているザックスにしては珍しい事だった。
 だが、何もしていないならセフィロスを閉じ込めておく必要などない。
 セフィロスが不思議に思っていると、やがてドアからブザーの音がしザックスがそれに反応して立ち上がる。
『やっと来た!』
 嬉しそうなその声にセフィロスの眉間に皺が寄った。
(誰かを呼んだのか?)
 今日はクリスマスをやたらと楽しみにしていたザックスの為に、セフィロスがもぎ取った休暇だった。
 セフィロス自身はクリスマスに関心は無かったが、ザックスが喜ぶならそれで良かった。何より理由に関係無くザックスとのんびりと過ごせる事をセフィロスは楽しみにしていた。それなのに邪魔を歓迎するとは…
(後で仕置きでもしてやろうか)
 セフィロスがそんな不穏な計画を立て始めた頃、玄関からリビングへとワラワラと入ってくる複数の人の気配を感じ、さらに探る。
(大勢だな。誰だ?)


『さ、入ってくれよ!』
『急げよ、仔犬』
『分かってるよ、昼までだろ?ちゃんと間に合わせるって』
 最初に聞こえたのは美声のテノール。
(ジェネシスか。確か今日は午後から任務のはずだが…)
『ザックス、キッチンを借りるぞ。オーブンは温めてあるか?』
『できてる!きっちり180度!』
 入ってくるなりそのままキッチンへ慌ただしく移動していったのはアンジールだ。
(アンジール?確か帰還予定は夜のはずだったが、もう帰ってきたのか?)
 仲間のソルジャーのミッション予定を思い返しながらセフィロスは首をひねった。
 セフィロスが休暇ももぎ取った分、皺寄せはこの2人に向いている。こんな所に来ている余裕は無いほど忙しいはずだった。


『おい、ザックス。買ってきてやったぞ、と』
『サンキュ、派手に飾ってくれ!』
『レノったらにふざけたものしか選ばないんだもの、見ててハラハラしたわ。ザックス、ちょっと確認して』
『ありがとう、シスネ。シスネが一緒に買ってきてくれたなら問題ないと思うけど』
 何かを持ってきたのか紙袋をかき回す音がする。
(タークスの赤毛もいるのか。一緒にいるのはザックスと仲の良いあの女だろう。しかし派手とはなんだ?)
『真面目に選んだぞ、と。これは絶対にいるはずだ』
『主役タスキ!!アハハ!さすがレノ!』 
 レノとザックスは歳も近いせいかよく馬が合う。特に悪巧みになるとそれは阿吽の呼吸だ。
(という事は、これは良からぬ事か…)
 気配と声から大方の動きは分かるものの、はっきりと物を見ることは出来ない不自由さもあいまってセフィロスの眉間には益々皺が寄る。


『で、相棒が抱えているこれはどうすんだ?連れてきたはいいが英雄の私邸と聞いた途端に固まったぞ、と』
『……』
『あー、カチンカチンだな、こりゃ。おーい、クラウド。動け~』
 どうやらタークスは組で来ているらしくレノの後ろにはもうひとつ気配がある。何も声がしない所をみてもレノの相棒のルードに間違いない。そして会話から察するにルードは誰かを抱えているらしいが
(クラウド?)
 聞き慣れない名前にセフィロスは眉間に皺を寄せたまま首を傾げた。
『初見で家はクラウドにはちょっと刺激強すぎか…おーいクラウド~。手伝って欲しくて呼んだんだから起きろ~』
『……はっ!ザックス…ッ!おれ息が…息できない…っ!セフィロスさんの私邸なんて…っ!むり…っ、むり…!』
『セフィロスはまだ寝てるし俺がいるんだから大丈夫。クラウドはシスネとツリーの片付けを頼む。何かしてる方が気が紛れるだろ?シスネ、クラウドをよろしくな』
『ええ、まかせて。でもザックス、この子緊張で泣きそうよ?』
『あー、よしよし。泣くな泣くな。いい子だから』
(……)
 話の内容を聞いてセフィロスはさらに口をへの字に曲げた。
 クラウドという人物、少し幼い話し方からして少年兵だろうか。ザックスに素直に甘える気配が実におもしろくない。
(後で問い詰めなくては)
 ベッドの中で目を瞑ったまま悶々と一人百面相をするセフィロスは英雄としての風格はなく、まるで溺愛する新妻の交友に肝を冷やす夫そのものだった。
 恋にヤキモチは憑き物だが、セフィロスにはまだその自覚はない。
 そして自覚がなければ、それは加速していくのが世の常だ。



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