■ 12月25日 01 |
冬の太陽は静かな光で始まりの時刻を告げてくる。 神羅ビルの上層にあるセフィロスの部屋にもその光は緩やかに差し込み、部屋の主に朝の時刻を囁いていた。 窓の外は肌を指すような寒さでひしめいているだろうが、常時空調の整った部屋の中ではその寒さを感じる事はなく、ただ穏やかな日差しを静かに受け止めている。 そんな穏やかな朝に1人、大きなキングサイズのベッドに横になったままセフィロスは何を見るでなくただ天井を見上げていた。 「退屈だな…」 隣に視線を移してもそこにいるべき人物はおらず、一枚のメモが伝言を告げるのみ。 セフィロスが長い指でそれを取ると何度も確認したその文面を再び目で追う。 部屋から出んの禁止! 呼ぶまで絶対に出てくんな! ザックス 「……」 本文よりも自分の名前の方が文字が大きいのは彼ならでは。見るからに元気いっぱいの文字はまさに人柄を表すにはうってつけだが、問題はその意図だ。 「全く…いったい何をするつもりだ」 呆れ気味の溜め息をつくとメモをサイドボードにおいて再びベッドに沈んだ。 「退屈だ」 することが無ければ、目で追うものもない。 普段は何もしなくても常に何かをしている仔犬が目の前にいる為、それを見ているだけで飽きるということは全く無いのだが、それを奪われてしまっては何の楽しみも無い。 ザックスがいないのならばまだ諦めもするが、理由も無く単純にお預けされているのだから理不尽にもほどがある。 「…いっそのこと、無視するか?」 その不満感からセフィロスは1人考えあぐねる。 もとよりこの家の主はセフィロスだ。その主が同居人のメモひとつで寝室に自主的に軟禁するなどチャンチャラおかしい。 「俺の家だ。俺の自由にして何が悪い」と、堂々と出て行けばいい。今までの自分ならそうしたであろうし、その方が自分らしいとセフィロス自身も思う。 だが… 「これがザックスでなければ…な」 すっかり体温の消えた隣に腕を伸ばし、退屈に抗うことを止めた英雄は全身から力を抜いた。 ザックスと出会い、傍におくようになってからセフィロスの周囲で起こる出来事は変わった。 それまでは効率的で無駄がなく、最小限の喧騒に留められていた静寂の日々が続いていた。が、ザックスが現れてからというもの無駄に騒がしく、片時も落ち着きのないものになってしまった。 まるでセフィロスの分まで担うかのように仔犬はよく話し、よく笑い、よく動く。 以前のセフィロスであれば騒がしさは最も苦手とするはずのものだったが、ザックスのそれだけは何故か心地がよかった。 「俺も変わったか…」 ずっと傍らに誰かをおくなど有り得ないと思っていた。 誰かに必要とされる事はあっても、自分から誰かを必要とする事はない。『全てを超越した完璧な人間』それが『神羅に英雄、セフィロス』だ。 自分はずっとそうであると思っていた。 それが今となっては目の前に彼がいなければこんなにもする事が無いという始末。 英雄としたことがとんだ落ちぶれようだ。 だが、その己の変化にセフィロスは口角を上げる。 「それも、悪くない」 ソルジャーである以上、その残酷な程の任務も扱いも変わらずにある。だが、それでも思えるようになった事がある。 毎日が楽しい。 生きていることが楽しい。 ここにいる事が楽しい。 それは、セフィロスが今まで思いつきもしなかったくすぐったくて愛しい感情だった。 さて、そんな癖になる想いを味あわせておいて、今、傍にいないという張本人。いったいどうしてくれよう。 何を企てているかは知らないが、わざとそれを邪魔して彼を怒らせるのも楽しめるかもしれない。 キャンキャン吼える彼を抱きしめて髪を撫でてやれば、顔を膨らませながらもザックスは大人しく腕の中に収まる。そのまま耳元で囁いて口付けを交わせば、ザックスは困りながらも必ず許してくれる。 その手に取るように分かる変化がたまらなく愛しくて楽しい。 だが… たまには彼の思う通りにやらせてみるのも見物かもしれない。たとえそれがくだらない企みだったとしても。 「出来れば早めで頼む」 退屈を甘受する覚悟を決めてセフィロスは目を閉じる。 そして甘受する代わりに気配で彼の様子を知ろうと、部屋の中の音を探るために耳をすます。 寝室から廊下を通りリビング、キッチンへと部屋の中にセフィロスの神経の糸が風のように流れ込んでいった。 |
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