■ 12月25日 
03 

 
 
『ザックス!オリーブオイルが無いぞ!』
『一番右上の棚!』
『何故これだけこんな所にあるんだ!物の置き場所は機能的にやれとあれほど!』
『うわーん、お説教は後で聞くよアンジールゥ~』

『仔犬、まだか』
『急ぐから、もうちょっと待って!』
『さっさとしろ。暇だ』
『なら手伝えよ!』


 口うるさいほどのアンジールの説教と驚くほど王様なジェネシスに挟まれると、ザックスはいつもキャンキャン鳴きながら走り回る。
 セフィロスがそこに現れれば途端に助けを求めて縋ってくる様がセフィロスの楽しみなのだが、今はそれが叶わない。

(つまらん)


『おい、ザックス。主役の席はどこだ?』
『あ、そこのソファの真ん中。何すんだ?』
『見ろ。タークス特製巨大クラッカー。バズーカータイプだぞ、と』
『お!すげぇ!!やっちゃって!やっちゃって!』
『よっしゃ!やっちまえルード!』
『おぅ』


 何のバズーカータイプなのか分からないが、壁に穴を開けるドリルの音が響き渡り始める。
 タークスとソルジャーの悪巧みは加減を知らない。

(これでもまだ寝たふりをしろと…?)

『あれ?ねぇシスネさん、ここ何で切れているんだろう』
『そうね、何故かしら』
『ねぇ、ザックス、なんでこのツリーのリボン切れてるの?』
『……』  
『ザックス?』
『……』
『…ザックス、なんで赤くなったんだろ?』
『……もういいわ…それ仕舞っちゃいましょう、クラウド…』

 
 それは昨夜のザックスが俺の為のプレゼントに使ったからだ。
 そう言って自慢したくとも、それも叶わない。

(いいかげん、飽きてきた)

 ただせさえ我慢している上、自分の家の中で自分の知らない事が自分を省いて楽しそうに着々と進んでいる。
 世界最強天下無敵のソルジャーの忍耐もさすがに限界が近い。
 それを一番分かって欲しいのはザックスだ。
 だというのに、一番明るく楽しそうにしているのもザックスだった。


『いいかみんなー、今日は歌も歌うからなー。そのあとホッペにチュー』
『『『『『『えー!』』』』』』

(……)

『駄目!絶対にみんなでやる!』

(…限界だ!) 

 もう歌でもなんでも好きに歌ってくれ!俺は知らん!そう思いセフィロスはベッドを起き上がったその時。


『俺はどうしてもセフィロスを喜ばせたいんだよ!!』


(………)


 ザックスが叫んだその一言にセフィロスの動きは止まる。


『だからみんなも協力してくれよ…やっと分かった誕生日なんだ。セフィロスのこと、好きだろ?』
『当然よ、ザックス』
『…今更何を言っている。なんの為に来ていると思っているんだ、バカ犬』
『セフィロスの好物を作ってやる。安心しろザックス』
『ツォンさんからもよろしくとことづかってんだぞ、と。な?相棒』
『おう』
『…あ、あの俺、バースデーカード持ってきたんだ。これに皆で寄せ書きしたらどうかな?』
『お。クラウド気がきく!いいな!それみんなで書こうぜ!』

(………)

 こっそりと再びベッドにもぐりこみ、セフィロスはシーツに顔を埋める。
 昨日だった誕生日。
 誕生日に意味は無いと言ったセフィロスに、そんなことはどうでもいいから祝わせろとザックスは滑り込んできた。
 それは単純に嬉しくて、セフィロスはそれで満足していた。それだけで充分だったのに…

(……俺にどうしろと…)

 あの楽しそうな喧騒に中に入れというのだろうか。
 そんな時にする顔などセフィロスは持ち合わせていない。慣れていないのだ、愛情を降り注がれることに。

『よーし、あとちょっとで料理も完成!みんなも準備出来たかー?』

 セフィロスの中で初めてとも言える妙な緊張が走り、顔に熱が上がる。

(…無理だ)

『ザックス、そろそろセフィロスを起こした方がいいんじゃないか?』
『うん、起こしてくるよ』

(とっくに起きてる!来るな、ザックス!!)
 
 世界最強天下無敵のソルジャーは、人生で初めて『逃げたい』と思った。
 当然、それを逃がしてはくれない兵どもは揃い踏み。英雄に逃げ道などは無い。

(来るんじゃない!ザックス!)

 仔犬の軽快な足音は刻一刻と近づいてくる。
 誰もが笑顔になる英雄最大のピンチはすぐそこだった。





end.




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