■ 一年に一度の刹那 04 暴かれた火種 |
翌日。 まだ高い陽の差し込む執務室の中、壁一面の窓の前に置かれた大きなデスクに組んだ足を乗せ、右手の指先でチョコボの羽をクルクルと回しながらジェネシスは缶コーヒーを飲んでいた。 ザックスが選んだ缶コーヒーは、かつてジェネシスが一度だけ『悪くない』と言ったただひとつの商品。 それを覚えていてこれを買ったとするならば、なかなか健気な選択だ。と、ジェネシスの口元も自然と綻ぶ。 だが、もうひとつの方は… ほどなくして執務室のブザーが鳴り、部屋に入ってきたアンジールは『チョコボの羽で遊ぶジェネシス』という、何ともレアな光景に和みかけ、そして、 「どうした?やけに機嫌がいいな、ジェネシス……いや、悪いのか」 幼なじみならではカンでそれが違うことに気が付くと、重いため息をついた。 「…相棒か。何の様だ」 「会議の時間なんだが」 「腹が痛い」 「もう少しまともな嘘はないのか」 「頭が痛い」 「少しは考えろ」 ジェネシスの見た目は至って普段通りだが、いかんせん、その視線はチョコボの羽を睨んだままピクリとも動かない。 「…その羽がどうかしたのか?」 「お前にはこれが何に見える?」 「俺にはただのチョコボの羽にしか見えないが。何か意味があるのか?」 「さあ、な。犯行声明か…、戦線布告か…。いずれにせよ、『ご馳走様』とはな…まだ度胸のある奴がこのミッドガルにいたらしい」 口元を上げる好戦的な笑みを浮かべ、ジェネシスは持っていた缶コーヒーをやや乱暴にデスクに置く。中身の無いそれは甲高い音を立ててデスクの上に直立した。 「いったい何の話だ」 一方、アンジールの眉間には深く皺が寄る。 いったい何の話をしているのか。 ジェネシスの回りくどく謎めいた言い回しは、幼なじみのアンジールでさえすぐには飲み込めない。 「俺のものを狙う不埒者がいたという話だ」 が、ジェネシスはそれに構うことなく長い足をデスクから下ろすと、その勢いを殺さないまま凛と立ち上がる。 そして、まるで捕まえた鳥を離すようにチョコボの羽を宙に舞わせ軽く指先をはじく。 と、それを合図としたように羽は一瞬で炎に包まれ瞬く間に消失した。 「…ザックスか?」 「……」 ジェネシスが『俺のもの』と固執するものは少ない。 その中からアンジールが選びだしたひとつに、ジェネシスは沈黙をもって肯定する。 そしてその肯定が、アンジールの不安を色濃くさせた。 「ザックスはいつでもお前に一生懸命だ。それが分かっているなら余計な心労を増やすような事はするな」 「やれやれ。子犬の事だとお父さんは真剣だな」 「ジェネシス!」 ジェネシスのからかうような物言いにアンジールは一喝をする。 が、それを平然と受け流すし、ジェネシスはアンジールの横を通り執務室のドアへと向かう。 「安心しろ。すぐに排除はしない。これからいったい何ができるのか、せいぜい楽しませてもらうまでさ」 後ろ手に軽く手を振り会議室へと向かった幼なじみに、アンジールは小さくため息をつきコメカミを抑えた。 「お前の方がはるかに真剣だったな…」 何があっても離したくない独占欲。 そんな変わり者で幼なじみの一般的にはなかなか理解され難い意思表示に同情しながらも、可愛い弟のような弟子の身を案じるアンジールは「もしも同じ雨であるならば恵みの雨となるように」と、祈るしかなかった。 end. |
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