■ 一年に一度の刹那 
オマケ 

 
 【scene1・ジェネシス×ザックス】


「子犬」
「…ん…」
「起きろ、子犬」
「……んー…あと5分…」
 ベッドに座り呼びかけるジェネシスの声もなんのその。
 もぞもぞとシーツを引き寄せ、寝癖のついた黒髪までスッポリと被りザックスは再び寝息を立て始める。
「起きろ、子犬。引き千切るぞ」
「…ゥン…」
「……」
「……ZZZ…」
「…ヲイ」
 ザックスの起床は往生際が悪い。
 特に濃密な夜を過ごした翌朝はそれが顕著で、この時ばかりはジェネシスの脅しもドS発言もザックスの耳には全く届かない。
「…ったく、お前は」
 それでも、そんな無防備に爆睡するザックスを見るジェネシスの目はこの上なく優しい。
 ジェネシスもやはり人。何をやっても何を言っても真っ直ぐに自分を愛してくれる恋人のザックスは、やはり誰よりも愛しい。
 ただそれを正面きって言うのはあまりにもむずがゆく、ザックスにとっては簡単な『素直な表現』が、ジェネシスには一番の困難だった。
「子犬、俺はもう行く。後は自分で起きろ」
「……ん~…」
 夢現で曖昧な返事を返すザックスのシーツを捲り、顔を出させる。
 安心しきっている寝顔は普段にも増して幼く見え、ジェネシスはその頬を緩ませた。
 そしてザックスの左耳のピアスを外すと、自分の右耳のピアスを外しザックスの耳に取り付ける。ジェネシスが指を離せば、それはシャラン…と軽い音を立てて漆黒の髪に流れ落ちた。
「誕生日のプレゼントだ。受け取れ」
 今までのザックスのピアスは活発な子犬らしく小さな石ひとつのものばかり。今はそこにジェネシスが愛用する揺れるピアスがある。
 ジェネシスはその事実に満足そうに目を細めると、そっとその耳たぶに唇を寄せた。
「似合いだぞ、子犬」
 小さくキスを落とし、そのままベッドから離れると家を出て行く。


「…マジ、?…」
 ドアが閉まる気配を感じながら起きるタイミングを逃した子犬はこの上ないほど顔を真っ赤に染め、再びシーツの中へともぐりこんだ。
「心臓に悪いっつーの…」
 頭を動かす度に耳元で立つ軽い音に、甘酸っぱいくすぐったさと幸福感が溢れ出してくる。
「うひゃぁ~っ、どうしよっ」
 ザックスは嬉し恥ずかしの照れくさそうに悶えながら、何度も何度も身を捩っていた。





【scene2・ザックスandクラウド】

 
「エヘヘ…」
「どうしたのザックス?なんだか嬉しそうだね」
 昼の食堂で一般兵に混じり、満面の笑顔で食事を取るザックスの隣に座ったクラウドは、目ざとくそのピアスに気が付き眉を上げた。
「あれ?そのピアス…」
「あ、うん…その、も、貰ったんだ…」
 赤い顔で嬉しくてたまらないとばかりに照れ笑いを浮かべ、何度も頭を掻くザックスは誰が見ても幸せそうだ。
 けれど、クラウドは気が付いていた。
 そのピアスには『俺のものだ。触るな』というジェネシスの強い殺意がある。
 神羅の誰もがおびえるジェネシスの暗黙の殺意。
 だがクラウドはそれにスゥーっと目を細めると、ニッコリと綺麗に口角を上げた。
「ふーん…ね、ザックス。それ、サー・ジェネシスの愛用品だろ?やっぱり愛されてるんだね、ザックスは」
「え?そ、そうかな」
「そうだよ。ね、これからずっとそのピアスをつけるんだろ?」
「お、おう。いちお…そのつもり」
「ならさ、お願いしてもいい?」
「お願い?」





【scene3・ジェネシスvsクラウド】


 その日の午後。

 ジェネシスの前に現れた一般兵は、踵を合わせ綺麗な敬礼をした。
「初めまして、サー・ジェネシス。クラウド・ストライフです」
 そして一般兵のヘルメットを取る。
 フワリを揺れるハニーブロンドに澄み切ったアイスブルーの瞳。そして、髪を振らすように頭を軽く振った中でその耳に光ったのは…
「?!」
 その耳にあったのはザックスが長い間愛用していた青いピアスだった。
 明るい藍色の、ザックスと同じ瞳の色のピアス。
 それを目にした途端、ジェネシスは滅多なことでは崩さないその切れ長の目を初めて丸くする。
 そのジェネシスの変化に、クラウドは可笑しそうに目を細めた。
「今日もご馳走様です。これからも楽しみにしていますね、サー。……フッ」
 そしてトドメとばかりに言葉の最後に勝者のごとき笑みで口角をあげる。
「くれぐれも足元をすくわれませんよう御注意を。では」
 そう言って再度軽く敬礼をすると、クラウドは呆気に囚われるジェネシスを尻目に堂々と去って行った。

「……」
 ジェネシスがザックスにピアスを与えたのは今朝のこと。そして午後にはこの始末。
 ジェネシスの予想を遥かに超えた行動力と脅威のメンタルに、1stのジェネシスは生まれた初めて腹の底から沸きあがる衝動を覚えたのは言うまでも無い。




「………コロス…」




 人のものとは思えない声で小さく呟かれた世にも恐ろしいその一言は、ジェネシスの内心でマグマのごとく燃えていた紅蓮の炎だけが聞いていた。






end.




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