■ 一年に一度の刹那 
02 夢を叶える有効利用 

 

 俺より2つも下なのに、時よりクラウドは俺より大人びて見える。
 それはクラウドが俺より落ち着いているからだろうけど、やっとできた《可愛い後輩》の前ではちゃんと《先輩》したい俺としては、自分のふがいなさを感じてちょっと悔しかったりもするんだよな。
 最も、クラウドに関しては後輩でもある以上に親友でもあるわけで、そこら辺の複雑さもあるわけなんだけど。

「俺ね、ザックス。なんとなくだけど…、サー・ジェネシスの気持ちが分かる気がするんだ」
「えっ?!」
 小鉢をつまみながら言うクラウドのセリフに、俺はこれ以上ないってくらい面くらった。
 だってあのジェネシスだぞ!?あのジェネシスの気持ちを、このクラウドが?!
「まさか…、嘘だろ?」
「ザックス、口開きっぱなし」
 驚きのあまり口を閉じるのを忘れている俺の口の中に、クラウドは小鉢の中のほうれん草のおひたしを放り込むと、小首を傾げた。
 必然的に俺の口も閉じる。
「ん~、でも本当になんとなくなんだ。俺、一般兵だからサー・ジェネシスは遠くからしか見た事無いけど、なんとなく纏ってる空気が分かるというか…俺と似てる気がする」
 口の中のほうれん草のおひたしを急いで咀嚼し、俺は慌てて首を振る。
「クラウドと?いや、そりゃないって!ジェネシスって、凄い天の邪鬼なんだ。クラウドの素直さなんて欠片も無いっての!」
 断固として言い張る俺に、クラウドはまた小さく笑った。
「なら俺が正解だ。俺は結構ひねくれ者だよ?俺のこと、素直だなんて言うのはザックスくらいだ」
「え、そうなの?」
「うん、そうなの」
 俺の言葉をリピートして遊ぶように言いながら、クラウドはやっぱり可笑しそうにクスクスと笑う。

 いったいどこまでが本気なのか冗談なのか…判断しかねて頭を掻いているとクラウドはスカイブルーの目を真っ直ぐに向けてきた。
「素直なのはザックスだよ。だから、サー・ジェネシスもからかいたくもなるし、甘えもしちゃうんだと思うんだ」
「甘える?ジェネシスが?」
「うん」
「俺に?」
「うん。当たり前に言葉が足らないのは、それでもザックスは理解しようとしてくれるのを知ってるからじゃないかな。違う?」
「あの、ジェネシスが…?」
 クラウドの言っている事が正解かどうかは分からない。
 けど、全く考えたこともなかったことに目から鱗が落ちた気分だった。
 ジェネシスが俺の素直さに甘える?そんな事があるんだろうか…。

「……」
「大丈夫?ザックス?」
 急に黙ってしまった俺の目の前に手の平をヒラつかせ、クラウドが顔を覗き込んでくる。
「サーに会いたくなっちゃた?」
 からかうように笑われて俺の頬にサッと熱が走る。
「バカ言え。明日まで好きにしろって言われてんだ。好きにするさ」
 本当を言えばちょっとは会いたい。けど、ここで帰ってもきっと良いことは無いだろうし、下手をしたらロープを持って以下同文…
「クラウド、ここ出てどこか他のとこ行こうぜ?俺の誕生日、付き合ってくれよ」
 改めて気を取り直し、伝票を持って席を立つと、クラウドが伝票に手をかけてきた。
「いいよ。ここも俺に奢らせて?ザックスの誕生日なんだから俺が出すよ」
「ここはいいって!俺のグチばっかだったし、奢ってくれんなら次のがいい」
 せっかく祝ってくれようとしてくれた親友にグチばかりなんて悪いことをしちまった。とりあえずジェネシスの事は脇に置いておいて、今はうんと楽しもう。
 と、決心してレジに進んだ時、ジェネシスの名前は意外な所から現れた。

「お代ならジェネシスさんから頂いてます」
「は?」
 レジの前で何の事か分からず暫くの間ポカンと大口を開けた後、「まさかここにいんのか?!」と周囲を見渡し始めた俺に、店員さんは苦笑いを浮かべながら言った。
「いらっしゃってませんよ。えっとですね…今日から明日まで、ザックスさんが同席するお客様のお代のお支払は全てソルジャー1stのジェネシスさんに行くようになっているんです。自動で随時決算されてるので、もうこのお代はお支払済みなんですよ」
「ホントに?でも俺、この店に来るなんてアイツに一言も言ってないけど…」
「この店だけじゃなくて、どこでも同じだと思います。システムがそうなっているので…」
「マジで?!」
 俺は驚愕のあまり目玉まで見開いた。
 俺が遊んだ分は全部ジェネシスの支払い?!しかも随時自動で?!
 そんな話聞いた事がない、つか、システムまで変えるってどんな状況だよ!
 驚きのあまり頭が白くなった俺に、クラウドはボソリと打ち明けてきた。
「あのね、ザックス。一応俺達…ザックスと仲がいい者にはサー・ジェネシスからは事前にお察しがあったんだ。ザックスがもし遊んでくれって言ったら、その分の代金は払うから付き合ってくれって…」
「マジで?」
「うん。だからザックスが帰ってくるまで、皆、遊ぶ気満々だったんだ。誘いのメールとか凄くなかった?」
 そうか!それであんなにメールが入ってたのか!
「でも俺は自分で払いたかったからそれは使わないようにするつもりだったんだけど…。参ったな、自動の随時決算だとは思わなかった」
 これじゃ払える隙が無い。とクラウドは残念がるが、俺の頭はそれ所じゃなかった。
 もう、何がなんだか分からない!
 何そのお膳立て!
 何その過保護!!
「いよいよ理解不能だ…」
 本格的にジェネシスが何がしたいのか分からなくり、ついに想像の限界を超えた。


「も…いい。も…無理」
 脱力感に苛まれながら店を出ると俺はある事を決心した。
「ザックス?」
 疲れたんだ。ジェネシスで悩むことに。だから…
「ご希望通り、遊んでやろうぜ。クラウド」
「え?」
「遊んでやるんだ。夢の贅沢ってやつを堪能してやる」
「ええ?!」
「付き合ってくれよな!クラウド!」
「ち、ちょっとザックス、何する気?」
「夢の贅沢っつったら決まってんだろ」
 慌てるクラウドをよそに、俺は海パン姿で有名な園長に電話をかけた。
「あ、ディオちゃん?ゴールドソーサー豪遊チケットを2人分頼むよ。もちろんスイートルームと送迎付きで!うん、今すぐ迎えに来て!」


 そして俺はクラウドを連れ、人生最初で最後のゴールドソーサー大豪遊を満喫した。




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