■ 一年に一度の刹那 
01 謎の自由時間 

 

 それは、ミッションを終了し神羅ビルに帰還した直後の事だった。

「子犬、明日の休みは1日好きにしろ。今夜から誰かとどこかへ旅行に行っても構わない」
「え?」
「ただし、24日の23時47分には必ず家に戻れ」
「ちょ、ちょっと…!ジェネシス?!」
「以上だ。ご苦労」
「おい!ジェネシス!」
 言うだけ言って俺の返事も聞かずにさっさと去って行く上司兼恋人。
「ジェネシス…?」
 俺はただ1人、夕日の明かりが落ちるソルジャーフロアにぽつんと残された。


「…え?どういうこと…?」
 ワケが分からず、事態を飲み込めない頭が真っ白になる。
 ジェネシスの言う事は突然で、その意図は極めて分かりにくく、とりつくしまもない。
 それはいつもの事だけど…
「相変わらず、ワケ分かんねぇなァ…」
 言い出したら聞かないのもまたジェネシスだ。
 俺は諦めて溜め息をつくしか無かった。

 きっと今から追いかけて真意を確かめても絶対教えてはくれないし、下手にしつこく聞けば苛立って太っといロープを片手に『そんなに自由になるのが不満なら、望み通り拘束してやる!』と、言い出しかねない。
「ぅー、勘弁勘弁」
 簡単に想像できるソレに身震いをすると、俺は気を取り直すためにポケットの中から携帯を取り出し、任務中に停止しておいた私用メールを受信する。
「今から…つってもなぁ…誰か暇してる奴なんているかぁ?」
 数秒の受信中の画面の後にメールを受信した知らせが鳴る。画面を開いてみれば50件近くの遊びの誘いメールがズラリと並んでいた。
「うぉっ!どうした?!この人気!」
 あまりの多さによく分からないまま、とりあえず一件だけ、クラウドからのメールを選んで開く。


『ザックス、任務お疲れさま。帰ってきたら連絡をくれないか?誕生日のお祝い、させて欲しいんだ。

            クラウド』


「…そうか、明日って」

 明日は2月24日。
 俺の誕生日だった。





              【一年に一度の刹那】





「ほんっとに分からねぇんだよ!な!そう思うだろ?クラウド!」
 結局、あれからすぐにクラウドを誘い、安さで人気の居酒屋に駆け込んだ。
 賑わう店内の一角に座ってすぐに生ビールのジョッキを一気に流し込み、さらに2杯目を片手に握りしめながら俺は目の前で困り顔で座る親友に同意を迫る。
「そうだね…ザックスの言う事も分かる、よ?」
「だろ?!ジェネシスはゼッテー変だ!理解不能!普通じゃない!ヘンタイ!」
「ヘ、ヘンタイは言い過ぎじゃないかな…」
 枝豆をつまみながらクラウドはスカイブルーの瞳を泳がせた。
 それもそのはず、ジェネシスはクラス1stの中でも群を抜いたエゴイストで通ってる。
 下手に悪口を言って耳にでも入られたら、どんな報復を受けるか分からない。神羅広しと言えど悪口を言えるのなんて俺くらいだ。
 …ま、俺も報復は俺も受けるけど、それはそれ。これはこれ!
「い・い・の!『泊まり』込みで好きにしろって言われてんだから、何しても何言ってもいいんだ!悪口言ったって、浮気したって!」
 言えば言うほど、思い出せば思い出すほど腹はムカムカと立ってくる。
 好きな事をしていい?!
 誕生日だぞ!誕生日!
 誕生日に誰と泊まり旅行に行ってもいいだ?!
 それが曲がりなりにも恋人に言うセリフか?!
 ナメてんのか?!
 浮気しねぇと見下してんのか?!
 畜生!ジェネシスの野郎!!
「思い切って結婚したっていいんだ!」
 残っていた生ビールを飲み干し、ドンとテーブルに置いて宣言する。
「そうだ!今なら結婚してそのまま新婚旅行にだって行けるんだ!」
 アテの無い計画に1人メラメラと燃える俺。
 と、小さくクスクスと笑う声が聞こえて顔を正面に向けた。

「なら、俺と結婚しようよ。ザックス」
「…え?」
「ふふ、ジョーダン♪」
 テーブルに両肘を付き、おもしろそうにクラウドは目を細めて笑った。
 その大人っぽい笑顔に俺のヤケクソみたいな怒りはしょぼんと沈んだ。
「からかうなよ」
 むくれて言えばクラウドは益々綺麗に笑う。
「ごめん。ザックスが可愛いこと言ってるから、つい」
「可愛いことなんて言ってないだろっ」
「言ってるよ。ザックスって駆け引きとか絶対に出来ないタイプだよね?」
「駆け引き?そんな器用なマネは出来ないけど…」
「ほら、やっぱり可愛い」
「違うって!」
 クラウドの余裕の笑みにバツが悪くなって、ビールを離して今度は焼き鳥にかぶりつく。
 そんな俺を見てクラウドはやっぱりクスクスと笑った。



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