■ 恋人がドSなんですが、どうしたらいいですか?5題 
返り討ちにあったら、
4.嫌いになるよとほのめかしてみなさい 

 

「……も、いい」
 やっと出た声は無表情だった。自分でも心が冷えて行くのが、ハッキリと分かる。
 予想外の返事に驚きすぎてあれほど出ていた涙まで止まった。もうこれ以上縋る言葉もない。
「ジェネシスなんか嫌いだ。もう二度と此処に来ない」
 どうしても言いたくなかった言葉が無感情に出てきた。頭の芯が痺れているようでどこか現実味が無いけれど、多分これで合っているんだろう。
 この部屋のカードキーももういらないと、テーブルの上にそっと置いた。
「これからはもう仕事の時だけ。必要最低限な事しか話さないから。サヨナラ」
 バイバイ、俺の独りよがり。

 そして背を向けて部屋を出ようとした時、背後で何かが動いたと思った途端、俺の身体が中に浮き、視界がぐるりと回る。
「?!な…!何すんだよ!」
 目の前にはジェネシスの背中。何も言われないまま突然担がれた事を理解するよりも早く、そのまま寝室に運ばれる。
「離せ!もう別れたんだから関係無いだろ!離せってば!」
 背中を叩いて、つま先で蹴って、必死に抵抗してみてもビクともしない。それどころか、軽々とベッドに放り投げられると片手で頭を抑えつけられ、こめかみを掴む指先に力を込められた。
「痛っ!痛い!痛いいッ!!」
 頭蓋骨がギリギリと音と立てて締め付けられて思わず悲鳴が上がる。
 脅しなんかじゃなく、ソルジャーなら頭蓋骨くらい本当に指先で割れる。その恐怖と痛みにジェネシスの腕を必死に叩いた。手を退けようと懸命に爪を立てても、まるで何かの重機のようにまったくビクともしない。
「マジ…っ!やめ…!!」
 最後の頼りとばかりに両足をバタつかせて痛みを散らしてれば、ドサリと骨盤の上に乗られてその動きも封じられた。
「ぃたぃ!…もう、ゃだ」
 頭全体を覆う激痛に両目を硬く瞑り、歯をくいしばって必死に耐える。と、突然に指先の力が弱まり、ペロリと柔らかいものが唇に触れた。
「……?!」
 何かなんて見なくたって分かる。これは重ねる度に俺をおかしくさせて、体にも脳裏にも深く焼きついたもの。
「…ジェネ…?」
 名前を呼び終わる前に唇が重なり、甘く吸い上げられた。
「…ジェ……」
 甘いリップ音に続いて唇を舐められ、歯列をなぞられて舌を絡ませ合う。
 最初は別々だった体温が溶けて同じになっていくのが気持ちいい。けどさ…
「…ん…ンぅ…」
 鼻から抜けるような甘えた声を漏らして答える俺も俺だけど、ねぇ、何でここでキス?
 俺達喧嘩の最中だろ?
 別れ話まで出てるのに、そんな場合じゃ無いだろ。ああ、でも…やっぱりジェネシスのキスは気持ちがいい。
「…ン…、……」 
 何度かのキスの後で唇が離れ、腕の力も弱まった。
 助かったという安堵と、名残り惜しさがごちゃ混ぜになった気持ちのまま、うっすらと目を開けた…のもつかの間。今度は両腕を取られて目の前で手錠をかけられる。
「……最悪」
 ああ、本当に泣きたい。もうあらゆる意味で。




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