■ 恋人がドSなんですが、どうしたらいいですか?5題 それでもダメなら、 5.あきらめてドMの道に目覚めなさい |
「…で、どうすんの?」 ベッドの上でマウントポジションを取られたまま手錠をかけられて。いたたまれない空気に耐えかねて俺は視線を逸らす。 もう本当に何がなんだか分からないし、分かる気もしない。 このまま身ぐるみ剥がされて放置? それとも道具使われてさんざん煽られて、奴隷ごっこ? どっちにしろ何にしろ、行われることに気持ちが伴なわないなら意味なんかない。 もしこのままエロい事すんなら、俺ってつまり単なるセフレだったって事になんのかな。だとしたらそんな関係もやっぱりゴメンだ。俺は単なる快楽だけじゃなく、気持ちの篭った快感がいい。 「用がないなら、俺は帰…」 「仔犬、俺が分かるように言え」 「……、は?」 言われた意味が分からなくて見上げると、ジェネシスは眉をしかめて困ったように俺を見下ろしていた。初めてみた、こんなに困惑してる表情。 「分かるように…って?」 「自分に分かるように俺に言えと言うなら、俺にも分かるようにお前も言ってみせろ。お前は何がしたい?」 「なに…って…」 困惑が俺にもうつるみたいに俺の眉も歪む。 俺、言ったよな? 好きなら優しくして欲しいって、ハッキリと。 それって通じないのか? けれど、俺の困惑以上に困惑しているのか、ジェネシスはますます表情を曇らせていた。 「俺に弄られて笑っていたかと思えば、突然泣いて怒り出し、あげくの果ては別れ話か? お前はいったい何がしたいんだ」 「弄り…?」 弄りって、その程度? 今までの罵倒って、まさかその程度のもん? 確かに笑ってふざけて楽しかった事もあるけれど、そうじゃない時もあったから俺はさんざん悩んだのに。 まさかの仮定が俺の頭の中を駆け巡る。まさか、まさか…まさかだけど… 「あ、あのさ…俺が、実は傷ついてるとか…思ったこと、ない?」 「無いな。お前はいつも笑っているから」 「一回も?」 「ああ」 「……」 目のやり場に困って視線を動かし、シーツに落として溜め息をついた。信じられないけど、本当に…そのまさかなのか。 「俺達…完全なコミュニケーション不足だ…」 「?何のことだ?」 「何のこともだよ」 「?」 ジェネシスはまた頭を傾げたけれど、それが答えだ。 だって俺にはアンタの考えている事が分からない。アンタにも俺の考えている事が分からない。 お互いに大事な事は何も言わないまま、なのに毎日じゃれて言い合って、寂しくなったら肌を重ねて、それで分かり合っている気でいたんだ。今までずっと。 「まるで餓鬼同士、だよな」 情けないような悔しいような、それでいて愛しいような気がして苦笑いが零れた。見上げてみれば、ジェネシスはまだ何の事か分からないと首を傾げていて、さらに可笑しくなる。 「何を笑っているんだ、仔犬」 ムッとするジェネシスが何だかちょっと可愛いとか思えるのは、俺の気の迷い? だけど、やっぱりそれが愛しくて、手錠をかけられた両腕を伸ばし、その中にジェネシスの頭を引き寄せた。 「ジャレ合うのも嫌いじゃないけどさ、たまにはちゃんと真面目に話がしたいんだってこと。たとえば…」 「例えば?」 オウム返しに返されて少し悩む。 たとえばなんだろう? 具体的な例えが思いつかなくて、でも、今すぐそうしたい気持ちが強くて「ベットにいる時とか」って言ってみたら、優しく微笑まれた。あ…もしかして今の正解? 「仔犬、最初の質問をもう一度してみろ」 正解なら、言ってみようか。 「……俺のこと、好き?」 「好きだ」 優しく響く低音ボイスに身体の奥がジンと痺れる。そのまま身体を重ねて唇を合わせて…なんだよ、出来るんじゃないか。 とびきり甘い愛情表現に、俺の心はは早くもふやけて溶け出してしまった。 柔らかな口付けと羽毛のように優しく触れてくる指先にうっとりしながら、何度も「好き」を重ねる。 俺達のコミュニケーション不足は簡単には埋まらないかもしれないけれど、こんな満たし方があるなら、きっと大丈夫だよな。 …大丈夫…だから… 「…ジェネシス…この手錠、外してッ…!」 忘れてたわけじゃないけど、早々にかけられた手錠は今だ外してもらってない。 身を捩る度にジャラジャラなる鎖がうるさいし、そもそも自由に身動きも出来ない。 シャツは捲り上げられたまま中途半端なままだし、そのくせ下半身はガッツリ剥ぎ取られて何も着ていない。 何も着ていないから…その、俺の状態も露なわけで…。もうこんなんじゃ、いやらしさだけが増す気がして恥ずかしい。 「外せってば!」 こっちは顔を真っ赤にして涙目で必死に頼んでいるというのに、当のジェネシスは意地悪くニヤリと笑ったまま実に楽しげだ。 「断る。首輪を我慢してやっているだけ、ありがたいと思え」 「何でそれを感謝しなきゃいけないんだよ!」 多分、どんなに理解はしてもきっと変わらないドSな恋人。 でも俺、ドMにはなれません。なりたくありませんっ。 「いや、だぁ!もうー!!」 その夜、手錠PLAYに始まり、ノリにのったドS野郎はやっぱり首輪が出してきた。 「喜べ仔犬。お前の為に新調た新しい首輪だ」 ニッコリと妖艶に浮かべられた微笑に、本気で泣いた。 翌日、後日談。 「あ、ザックス、おはよう。昨夜は大丈夫だった?」 ゲッソリとした俺とは正反対に、朝のさわやかな空気がよく似合う親友があどけない笑顔を向けてきた朝、俺は半分ボヤけた頭のまま首を傾げた。 「おはよ、クラウド。な、何のこと?」 「昨日、ザックスが大きい声でジェネシスさんの悪口言ってたって噂が広まってたんだ。多分、ジェネシスさんの耳にも届いたんじゃないかな? だから俺、ザックスが報復を受けるんじゃないかって心配してたんだよ」 親友の心配に納得がいった。 そうか…だから昨夜の奴さん、最初あんなに冷たかったのか…。それで仲直りしたもんだから…ノリノリだったわけね。 力の抜ける謎解きにガックリと肩を落として深い溜め息を零す。 俺とジェネシスって、本当に分かり合えたんだろうか? あんなにケンカしても、仲直りしても、結局は振り出しに戻っている気がするのは気のせいか? 「…ザックス?大丈夫?」 心配そうに覗きこんでくるクラウドは透明で澄んだような性格の持ち主。 ああ、この子の爪の垢をジェネシスに飲ませてやりたい。ほんの少しでも!ほんの少しでもいいから…! 「うん、大丈夫。…ただ、クラウド、今度からそういう事はすぐに教えてくれるとありがたい…かな」 泣きたいまま叶わない夢を願いゲンナリと肩を落とす俺の横で、キラキラした笑顔を振りまく親友。 「うん、分かった!ザックスの役に立てるなら、俺今度からそうするよ!」 まかせて!とばかりにキュッと拳を握ってみせてくれた親友のそのやる気が、いつも以上にまぶしかった。 end. |
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■お題配布元「確かに恋だった」 |