■ 優しい部屋 08 |
その日、クラウドは白い部屋のベッドに1人で座っていた。 クラウドが目覚めているというのに、ザックスは現れない。 それは、彼もまた今日が『その時』だという事を分かっているからに他ならなかった。 クラウドが部屋の中を見渡せば、そこには仲間からの沢山の品物が色鮮やかに並ぶ。 良い香りを放つたくさんの花。 いくつも飾られた似顔絵。 数の増えたマテリア。 (クラウド) (クラウド、聞こえる?) (帰っておいで、クラウド) かけられてくる暖かな声に、クラウドはゆっくりと立ち上がる。 そして、白い部屋のドアへと向かった。 カタリ、 と、小さな音を立ててドアが開く。 ゆっくりと開かれた先に広がっていたのは、一面の白い花畑だった。 どこまでもどこまでも限りなく広がっているような白い花。 あの教会で、エアリスが育てていたのと同じ花だ。 その中に、ザックスはいた。 1人で花々の中に佇み、時より飛び交う花弁に目を細め、まるで話でもしているかのように微笑む。 穏やかで、安らいだ空間だった。 「…ザ…ックス」 クラウドが掠れた声で名を呼ぶと、ザックスはそれに答えるように視線を向けて、優しく微笑む。 『行くのか?』 「……」 「…ああ」と、頷こうとしてクラウドはまた戸惑う。 それを言うしかない。けれどそれを言ったら、ザックスはそれを受け止めてしまうだろう。そうなれば、それが別れの時になる。 「俺は…」 別れるのは嫌だった。 ザックスとはまだ何も話していない。何も築きあげていない。 いつもいつも与えてもらうばかりで、守ってもらうばかりで、今回もまたそれで終るのかと思うと自分という存在があまりにもいたたまれない。 それでは何も変わっていないのだ。この白い世界に来た時の自分と。 「…俺は…」 『クラウド』 俯くクラウドを励ますように、ザックスの明るい声が呼ぶ。 『お前を見捨てたりしないよ』 「……っ」 その言葉にクラウドはハッと、顔を上げた。 『 』 ザックスの唇が何かを告げる。だが、その声はクラウドには届かなかった。 「ザックス…? なんだ? 聞こえない」 初めての聞こえない声に、クラウドの焦りは一気に加速する。 少しでも近づこうと、クラウドは慌てて歩を進める。が、そのクラウドを遮るように花の花弁が舞い上がり、微笑むザックスを見る見る包んでいった。 「ザックス…!」 世界が白い光で包まれていく。 本能で分かる。 これは、別れの時だ。 「…ザックス、ザックス!!」 必死にその名前を呼んだ。 けれど答えは聞こえず、真っ白な光はクラウドを包んでいく。 別れが、やってくる。 「ザックスッ!!」 <バイバイ、クラウド。あとはお願いね…> 真っ白な光の中、慈愛に溢れた明るい声がクラウドを送りだしていた。 |
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