■ 優しい部屋 
07 

 

一度燻り始めた場所から生まれた意識は、まるでこぼれたインクのようにクラウドの中に広がり始めていた。
そしてそれを物語るように、白い部屋の景色は変わる。

壁に貼られた小さな少女の絵。
翌日には、その絵の隣に折り紙で作られた花が飾られた。

さらに翌日には、テーブルの上に湯気の立った、色の薄いスープが置かれていた。
ザックスに促されクラウドがそれに少しだけ口をつけると、翌日からそのスープは毎日現れるようになった。
クラウドの身体の事を考えて作られた優しい味は、強く優しい幼なじみの想いだ。


やがてクラウドがそのスープを飲み干すようになると、今度はベッドの柵にゴーグルがかけられた。
誰よりも空を愛する、ぶっきらぼうで情の熱い愛妻家な男を思い出す。

そしてそれらの想いの篭った品々は、日が経つにつれ数を増やしていった。


枕元に置かれたマテリアは、世界中のマテリアは自分のものだと言い切る元気少女の宝物。

そのマテリアの横に置かれたキーホルダーは、口数少ない男の銃に付けられていたものだ。

小さな王冠。

色の付いた羽飾り。

少しだけ場に不釣り合いな機関銃の弾丸は、置くものに困り果てた持ち主が悩んだ末に自らの右腕から出したものだろう。


姿は見えなくても、そのひとつひとつから想いの声が聞こえてくるようだった。



(クラウド)

(クラウドー)

(まーたく、いつまで待たせる気なんだろ。相変わらずだよね、クラウドってば)

(クラウドを信じろ)

(大丈夫や。クラウドはんは、負けたりしまへん)

(いつまでも待たせるんじゃねぇぞ、スパイキー)







みんな…







顔を見なくても分かる。
心配で不安を抱えながら、それでも自分を奮い立たせ必死に信じて待っていてくれる仲間達。
それが掛け替えの無い仲間達だとクラウドにも分かってはいる。
戻るべき場所がそこなのだと言うことも。
戻らなければならないということも。


けれど


そこに戻れば、この部屋でザックスと会うことはもう二度とない。






……







支えられたままクラウドが彼を見上げれば、ザックスはいつもと変わらず微笑んでいた。
何もかもを許すように。
これからクラウドが決めるであろう全ての事を、受け入れるように。
黙ったまま、微笑んでいた。






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