■ 優しい部屋 
04 

 

いく度目かの目覚めの朝、クラウドは花に視線を向けると、その袂には小さな白い粒があった。



それはこれまでの人生で何度も見た事があるもの、薬だ。


だが、何の薬かは分からない。

もちろん、それがクラウドのものであるのかどうかも分からない。


そして、それをクラウドが確かめる術も無い。






……






クラウドは関心の無いように瞼を伏せた。

腕を伸ばす方法など忘れてしまっていた。

まるで自分のものではないかのように、動かす気にすらなれない。

腕は動かない。

動かない自分に、薬など必要ない。







が、

再び瞼を開くと、その薬の横には水の入ったグラスがあった。







……








透明なグラスの中に入った水は、白を反射し光を生む。

そのガラスの表面には小さな雫が生まれる。

それはやがて繋がり合い、そして、グラスを辿るように、テーブルへと落下していった。







…あれが、下…







その雫の落ち方で、クラウドはやっと上下を認識した。

この部屋には天地があり、そして雫が落ちる時間がある。







この部屋は…、






この部屋は、

何もないわけじゃない。





そんな何でもない事をクラウドが認識したその時、

カタリと、小さな音を立てて白いドアが開いた。





コツ、コツ、コツ……





久しく聞いていなかった『音』がクラウドの耳に木霊する。

そして

その鮮明な黒は、クラウドの白い視界の中に現れた。

癖のある黒い髪と、彼の誇りだった黒い制服。





『ク・ラ・ウ・ド』




声は無い。
けれど、その唇はハッキリとその名を呼び、そして、彼らしい笑顔をクラウドに向けていた。





『もう、大丈夫だからな?』







……ザックス……







…ザックス…ッ





ザックス…!







もの言えぬクラウドの喉の奥に、熱い痛みが込み上げていた。










03 ←back ◇ next→ 05





inserted by FC2 system