■ urge 2 07 |
濃密な対戦だった。 ザックスは余すことなくアンジールに実力を晒し、そのザックスに必要な技術をアンジールは実戦で示す。それをザックスは模範し、再びアンジールへと返すのだ。 互いを倒し合うための勝負ではなく、ザックスという『個』を育てるための教育。 互いの一挙一動を注視し、決してそこから目を逸らせない。 互いの息遣い、呼吸の間、そして思考の襞までも読み取るように重ね合う剣技。 考えるよるも先に身体が動く爽快感。 他には何もない。自分の全てをこの瞬間瞬間に賭ける。 それはまさに、戦う者にしか味わえない高揚感でもあった。 決死であるはずのバトルの中、ザックスの精神もまた、その高揚感に満たされていた。 「…アンジール…」 「なんだ?」 真横から切りかかってくるアンジールの剣を、ザックスは反射的に剣と自分の身を使って受身を取る。剣の威力を受けきれずザックスの足は地を擦りはしたが、弾き飛ばされる事はない。 アンジールのように敵の威力を吸収し次の攻撃に繋げるまではまだ出来ないが、アンジールを模範とした受身は確実にザックスの身につき始めている。その事に、アンジールは静かに微笑んだ。 「こんな時にこんな事言ったら、また叱られるかもしれないけど…」 「…ん?」 「俺…今、すごく楽しい」 「……」 「すごく…幸せだ」 満たされる幸福感に、ザックスが綺麗に微笑む。その微笑にアンジールの剣の威力が一瞬止まった。 重なり合った剣から僅かなそれを『隙』と感じ取ったザックスは、すかさず真上へと身を翻し、アンジールの背を蹴って上空と飛び上がる。それと同時にマテリアに波動を込めながら剣を振り翳し、真下にいるアンジールへと振り落した。 「!」 回避する間もなく振り落ちてくる隕石のような火炎攻撃に、アンジールはバリアを張りガードをする。そしてニヤリと口角をあげた。 いい攻撃だった。波動を込める時間が短くなった分、僅かに威力は落ちたが、技を繰り出すまでの時間は飛躍的に短縮されている。 これならば、敵の隙をついて攻撃する事が可能だ。訓練をすれば連続攻撃の中に効果的に取り入れる事が出来る上、魔力を上げればさらに技の威力も増す。実戦としても非常に有効な技となる。 おもしろい。 素直にそう思う。この短時間にそこまでの可能性を広げてきたザックスに、アンジールの胸は確実に躍っていた。 「…偶然だな。俺もだ」 「…ぇ…?」 「俺もだ、ザックス」 上空にいるザックスの元へ、アンジールも飛びあがる。 「こうしてお前に力を見せる事も!」 そしてザックスの剣に拳を合わせるように、バスターソードで切り上げた。 「それをお前が学習する事も!お前が強くなる事も!」 右から、左からアンジールの剣が交互に湧き上がる。それをザックスは付いていくように交互に受け止める。 「それを俺が独占しているという事も!全てが幸せだと言ったんだ、ザックス!」 「ア、アンジール?!」 アンジールの剣の威力にザックスの手は痺れ、全く予想していなかった言葉に戸惑う。が、アンジールの剣は止まらない。 「もっとお前を近づけたい。もっとお前に知らせたい。もっとお前に理解させたい!」 そして、ついにザックスの手から剣は弾かれ、大地へと落ちた。 「もっとお前を見たい!知りたい!それがもし可能であるのなら」 「…アンジ…」 アンジールはそんなザックスの胸倉を掴むと、自らの方へと引き寄せた。 「ずっと俺の傍にいてくれ、ザックス」 「…!」 ザックスの藍色の大きな瞳がさらに大きく見開く。青い空は凝縮されたような、どこまでも青いザックスの瞳。今、そこにはアンジールしかいない。 「…共にいてくれ…」 「……っ」 ザックスの眉がクシャリと寄り、その瞳に写っていたアンジールの顔が波紋の広がる湖面のように揺れた。 戦意は、風に誘われるように流れて消えていた。 沈黙のまま地上に降りたった2人に言葉はなく、俯いたまま抵抗をしないザックスの肩をそった抱き寄せたまま、アンジールは申し訳なさそうに頭を項垂れていた。 「…わかんない」 アンジールから見えるザックスの真っ赤な耳と首は熱い。泣くのを必死に堪えているのか、声も枯れている。 「ザックス…」 「分かんねぇよ!だってさっきまで俺のこと警戒してたのに!俺の事、避けてたじゃないか!出来ない奴だって思ってたんじゃないのかよ!なんで、急に…!」 「そんな風に思ってのか?…悪かった。俺は今まで…」 「いい!今はいい!聞きたくない!今聞いたって何も理解できない!」 「だが…」 「3文字!」 自由になる手でアンジールの胸にピシリと3本の指を叩きつけた。 「3文字だけ!それ以上は無理!」 「3、3文字?か、漢字は込みか?」 「そんな事はどうでもいいんだよ!とにかく一言だけ!それしか受け付けない!!それしか聞かない!!」 怒っているのか泣いているのか、ザックスの声はその半々だ。だが、ザックスの望みはアンジールには分かっていた。 ゆっくりと引き寄せると、真っ赤になった耳もとに唇を寄せる。 「 」 アンジールが小さく囁いたその言葉は、ザックスにだけ届いていた。 「残念。最後の一言は聞き取れなかったか」 オペレーションルームでアンジールとザックスのバトルを鑑賞していたジェネシスは、その終演に感想をもらす。 「今回はお前らしくないほど随分と世話を焼いたな。やはり幼なじみは特別か?」 ジェネシスの傍らには途中退場したセフィロスが立ち、同じように2人の対戦を見守っていた。 やや呆れ気味に言うのは、ジェネシスがここまで他人の恋路に首を突っ込むのは珍しいからだ。だがジェネシスは惚けるようにと首を振る。 「さあな。ただ、怒っているのさ。1stになる時、アイツは俺の事まで『自分が死んでも悔いの残らない存在』とした。それがずっと許せなかっただけだ」 YESともNOともつかないジェネシスの返事だが、セフィロスから見れば結論は見えている。 そんなことに反応し怒るのは、それを言ったのがアンジールだからだ。そしてこんなに長い間根にもつのも、それほど心配をしているという裏返し。 セフィロスはそんな天の邪鬼なジェネシスに小さく微笑んだ。 「これで許せたのか?」 「まだまだだ。最近は俺を平気でかわすようになってきて、さらにおもしろく無いと思っていた所だ。このシュミレーションは録画させてもらった。これから大いに活用させてもらう」 そうしてニヤリと腹黒い笑みを浮かべたジェネシスに、セフィロスはアンジールに心から同情をした。彼は最も厄介な人間と共に生まれ育ったのだ。 そして、そんな幼馴染が近くにいる事も忘れバトルに夢中になったあげく、プロポーズまがいの告白までした。 そんな、たまの抜け方がハンパなく大きい真面目な男に『自業自得』の言葉を思い浮かべていた。 |
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