■ urge 2 
06 

 

「な、もっかい!もう1回やらせて!」
 シュミレーションの大平原の中でザックスはセフィロスに人差し指を見せ、手を合わせて強請っていた。
「まだやるのか?もう飽きたと言っただろう」
「復習したい!完全にマスターしなきゃアンジールに見せられないだろ?俺、絶対にビックリさせたいんだ。俺は出来るって認めてもらいたいんだよ。な、だからお願い!」
「だったら、それは本人の前でやれ」
「へ?」
 そう言ってセフィロスが後ろを振り返る。
 ザックスがその視線を追うと、そこにはバスターソードを背負ったアンジールがこちらに向かってきていた。
「…え…、なんで…?」
 自体が飲み込めず、ザックスはその大きな瞳を開く。が、アンジールとセフィロスは視線だけで頷くと、それだけで通じ合っているかのようにすれ違い様に互いの握りこぶしの甲を軽く合わせた。
 そのままセフィロスはフィールドからフェートアウトし消えて行く。
 草原の中には、アンジールとザックスの2人きりとなった。

「では、始めようか。ザックス」
 ザックスの目の前に立ったアンジールはスラリとバスターソードを抜くと、小さく祈りを捧げ構える。いつも背にあるそれが自分に向かって構えられる光景を、ザックスは初めて見た。
「…え、でも…それ…」
「この剣はお前に対する謝罪と敬意だ。抜いた以上、俺も自分の本心で行く」
「…アンジ…ル?」
 事態が飲み込めないザックスは1人戸惑いオロオロとするが、真剣な眼差しのアンジールに押されるように身体は自然と構えをとった。
「お前の全力を出せ」
 アンジールの踏み切りを合図に、2人の手合わせは始まった。


 
 再び、平原の中に剣を交える音が響く。
 アンジールの大剣はソルジャーの中の誰よりも重く大きい。
 大剣は重量がある分その単発の威力は大きく、また、リーチが長い分その攻撃範囲も広い。が、代わりに切り返しが遅れ手数が減る為、それが弱点となる。それが大剣の通説だ。
 だが、バスターソードを扱うアンジールには、その通説は全く通用しなかった。
 大剣とは思えない速度でバスターソードを振り下ろし、瞬時に刃を切り返す。その速度と機敏性はバスターソードよりも遥かに軽い正宗を扱うセフィロスと互角。そしてその破壊力は絶大だ。
 ひとたび剣を振れば轟音をあげてザックスの足元に風の刃を叩きつけ、大地を切り裂く。それは、バスターソードのリーチを遥かに超えた長距離攻撃だった。
「くそっ!」
 ザックスは後方へと回転し風の刃をギリギリで回避する。が、バスターソードの検圧に押され身体は無情にも軽々と宙に浮く。
 ロングソードを大地に突き立てなんとか踏みとどまりはしたが、ザックスがやっと瞳を開けた先でアンジールは余裕の笑みを浮かべていた。
「どうした、ザックス?全力を出せと言っただろう。俺が相手では不満か?」
 ザックスはそんなアンジールの煽りに噛み付いた。
「誰が!なんで…こんな事になってんのか分かんねーけど…、でも、こんなチャンス!絶対に逃すもんか!」
 気丈に振舞いアンジールを正面から睨みつける。
 ザックスにとって、これはまたと無いチャンスだった。
 一緒に戦いたいんだと、アンジールと同じ道を歩きたいのだとどんなに願っても、アンジールは決してミッションに連れて行ってはくれなかった。
 与えられるのは訓練プログラムばかりで、最近は雑談すら避けられている気すらした。追いたくても追わせてもらない、そんな状態だった。
 けれど今、そのアンジールと共に剣を交えている。しかもアンジールが何より大切にしているバスターソードでだ。
 それはザックスにとって、人生に一度かもしれないと思うほどこの上ない幸運だった。
「やあああ…ッ!!」
 大地を蹴り、ザックスが全身をバネにしてアンジールに切りかかる。アンジールはそのロングソードを迎えるようにバスターソードを盾に構えた。
 ぶつかる!そう思ったザックスが返ってくる反動を覚悟し顔をしかめたその瞬間、予想に反してザックスの身体はフワリと止まった。
「?!」
 ザックスの目の前で2つの剣は交わったままピタリと止まる。
 ザックスが込めた力はそのまま、反動も起こらなければそれ以上押すことも出来ない。それはまるで、ザックスの剣がバスターソードにピタリと吸い付いているような感覚だった。
「な、なんで…?」
 初めての感覚に戸惑うザックスにアンジールはニヤリと笑う。
「ただの鉄の盾を作る事だけが受身じゃない。こうして敵の威力を吸収し己の懐に入れれば…、」
 アンジールは軸足に重心をかけ、攻撃のために隙の出来ているザックスの腹を目掛け思い切り振り上げる。
「次の攻撃に繋がる!」
「…!グ、ァ!!」
 アンジールに蹴り上げられ、ザックスは力無い人形のように上空へと飛んだ。
「くっ…!」
 衝撃で息が詰まり呼吸が止まる。が、ザックスはそれに歯を食いしばりしっかりと目を開と、すかさず剣に装備したマテリアに波動を込めた。
 ダメージを受けた時、そこからの復帰速度が勝負の鍵だ。より早く、より迅速に体制を整え直し攻撃を返すことで逆転が可能になる。ザックスは今の自分が持つ最も強力な技『メテオショット』にそれを賭けた。
 が…、
「遅い!」
「?!」
 波動を込めた剣を振りかざそうとした所で、ザックスの勢いはピタリと止まる。
 目の前には突如、アンジールがいた。ザックスが技を繰り出す時間よりも早く追撃してきたのだ。
「技を出そうとしているのが見え見えだ!」
 そしてバスターソードの剣身を使い、容赦なく上空からザックスと叩きこむ。
 ザックスは波動の篭ったマテリアごと地面に叩きつけられると、爆風をあげ被弾した。
「ぐ…げほっ…!」
 クレーター状に大地をくぼませ、その中心にザックスの身体が沈む。土煙りが上がる中、ザックスの肺は酸素を求めて激しく上下し、平衡感覚を見失った感覚を元に戻すために頭を振った。
 そんなザックスの前に、無傷のアンジールが余裕で着地する。
「それでは使いものにならない」
「…ずるいぞ!まだマスターしてない技にそんなこと言うなよ!」
「バトル中に己の未熟さの言い訳か?それをいったい誰が聞くというんだ?」
「くそ!」
「使い物にならなければ、徹底的に強化しろ。俺はその為にいる」
「!」
「必要なスキルは全て俺から奪い取れ。来い、ザックス!」
 そして再び剣を構えたアンジールに、ザックスは大地を蹴った。
 
 
 
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