■ urge 2 
05 

 

 何も、言葉がでなかった。
「……」
 そんなザックスとセフィロスの光景を前に、アンジールは呼吸をするのも忘れたように、ただ呆然と立ちすくんでいた。
 黙ったままのアンジールの横で、ジェネシスはヴィションのスイッチを切る。
 高い電子音を立てながら周囲からは電子パネルが次々と消え、シュミレーションから切り離された空間は元の冷たく静かなオペーレーションルームへと戻っていった。
「……」
 アンジールは言葉を失ったまま、静かに自分を支える様に頭に手を当てる。
「相棒、感想は?」
「すまない…。少し放っておいてくれ…」
 ジェネシスの問いにもまともに答えられない。それ所ではないほどアンジールの心の中では何かがザワついていた。
 早くこれを沈めなければならない。だが、そう思えば思うほど、今見た光景が目の前に浮かぶ。

 自分には内密のまま、ジェネシスとセフィロスに訓練をつけてもらっていたザックス。
 その中で新しい技を習得し、眩しいほどの笑顔を見せていた。
 それはそれでいいはずなのだ。
 1st候補生なのだから、そうやって成長すればいい。それは間違いではない。だが…
 この心に引っかかるものは、何か。
「……」 
 目の前にあるのは、ただのオペレーションルームだった。
 ザックスがいた、風がふき、太陽が降り注ぐ大平原とは全く違う機械だらけの鉄の部屋。
 本来はこれが正しいというのに、この方が違和感があると感じてしまう。
 あの達成の喜びに満ちた笑顔を、一番間近で見れなかった事に悔しさを覚える。
 あの頬の傷を、自分以外のものが治したことに…
 

「いいかげんにしろ。相棒」

 思い悩むアンジールの横で、ジェネシスは呆れたようにため息をついた。
「お前の考えている事など、たやすく想像がつく。だから、過去の決断に義理立てするなと言うんだ。本当は分かっているんだろう?」
「……」
 唇を噛み、アンジールは眉を寄せた。
 そうだ。分からない…わけなどない。わけなどないのだ。
 だが、それを一度でも認めてしまったら、自分の決心が瞬く間に崩れさってしまう気がした。無理に固めた決心ほど、崩れ始めた時は脆い。
「…俺は…いつ死んでもいいように…」
「悔いが残らない死に方などあるのか?お前は単に、自分の大切なものに何もしてやれなくなるのが怖いだけだ。死とはそういうものだからからな。だが、何もしてやれない事は生きている間にも起こる。生きている間の悔いはあってもいいのか?」
「……」
 ジェネシスの指摘に、アンジールは何も言えなくなっていた。
 ジェネシスの言っている事は理解は出来る。おそらく正しいのだろうという事も。
 だが、アンジールとて生半可な気持ちで立てた決心ではないのだ。それを覆すのは容易な事ではない。
「仔犬が仔犬でいる時間は短い。ぐずぐずしていたら、見逃してしまうぞ?」
「!」
 ふと、こぼれたようなジェネシスの優しい言葉にアンジールは顔をあげた。
「仔犬の鼻先にエサをぶら下げたまま放置するよりも、鬱陶しいほど甲斐甲斐しく世話を焼く。その方がお前らしい」
 所詮、お前は昔からそういう性質だ。と幼馴染が笑顔で目を細める。その笑顔に、アンジールは大きく背中を押された。
「…ジェネシス」
「ん?」
「ありがとう、行ってくる」
「…そうか」
 ジェネシスに調整の操作をまかせ、アンジールはシュミレーション中のフロアへと向かう。
 自分の中に封じたものをどうするべきか、自分の目で確認しようとしていた。
 
 
 
 
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