■ urge 2 
04 

 

 任務の特性上、ソルジャーには定時的な時刻は定められていない。だが、社会の通念上からなのか、この時間に休憩を取るソルジャーは多かった。
「相棒、さっさと来い」
 リラックスムードのソルジャー達の間を通り、ジェネシスが向かったのはシュミレーションルームだった。
 今からシュミレーションをするのかとアンジールが疑問に思いながら中へと入ると、フィールドの窓は電子幕が下り、ロックがかかっていた。使用中の証だ。
「先客がいるぞ?ジェネシス」
「お前に見せたいのはその先客だ」
 ジェネシスはそう言うとロックを外し、ヴィションをオペレーションルームまで開放するため、いくつかのスイッチを押す。途端、2人の背景は電子パネルに包まれ、中で行われているシュミレーションの世界に傍観者として誘われていった。
 
 
 まるで空中に浮くように位置したアンジールの足元に広がったのは、見渡す限りの大平原だった。
 その中で、2人のソルジャーが剣を交わす音が響く。渾身の力で立ち向かい振り下ろされるロングソードと、それを軽く受けて弾く正宗、ザックスとセフィロスだ。
「ザックス、何故ここにいる?相手はセフィロスなのか?!」
 その場にいたのが思わぬ人物だった事に驚くアンジールに、隣に立ったジェネシスは鼻先で笑った。
「今日に始まったことじゃない。仔犬がどうしても言うのでな。最近はこの時間に俺達が交互に付き合ってやっている」
「俺達?ジェネシスもか?!」
「仔犬は1st候補生だ。俺達が教授するのは不自然か?」
「…いや…それは…」
 アンジールには返す言葉がなかった。
 確かに1st候補生であるザックスに直接1stが至難するのは本来のあり方であり、筋が通っている。いくらバディを組んだとはいえ、ザックスはアンジールのものではない。
 そんな当たり前のことに、今更ながら気が付かされた。
「すまない…。お前達がそんなに後輩の育成に熱心だとは思わなかった」
 そう言い返すだけが精一杯のアンジールが零した苦笑いは、自分に向けたものかもしれない。
「間違ってはいない。俺もセフィロスも、面倒事は大嫌いだからな。が、あの仔犬に関してはいささか違う。誰かさんが熱心に基礎訓練をしてくれたおかげで面倒が省け、俺達は面白い所だけをやれる。見てみろ」
 ジェネシスに顎で促され、アンジールは剣を合わせるザックスを見た。
 
 
 ザックスが振り下ろした剣を受け止め、セフィロスが反対方向へと弾く。ザックスはその反動を受け、利用するように重心を変えると再び切りかかる。その連続したスピード技の繰り返しだ。
 そしてそれが繰り返される度に、無駄な動きのないセフィロスを模範し、ザックスの動きもより小さく俊敏になっていく。
 かつてアンジールに向かってただがむしゃらに立ち向かっていたザックスとは全く違う。きちんと相手の剣を見て、その剣筋を追うザックスがそこにはいた。
「…こんなに上達していたのか」
 自分の予想を遥かに超えていた成長ぶりに、アンジールは驚くと同時に寂しそうに声を漏らせた。
 まだ初歩の段階とはいえ、自分が教えてやろうと思っていた事をザックスはすでに習得している。それはアンジールが初めて知る喪失感だ。
「まだだ。こんなもんじゃない」
 そんなアンジールにジェネシスはさらに追い討ちをかける。
「しっかり見ておけ」
「…?」
 ジェネシスからザックスへとアンジールが視線を戻した先、そこで行われているザックスとセフィロスの手合わせは急速にスピードを加速させていった。
 
 
 セフィロスの弾く力と剣先のスピードがあがりパワーが増す。
 それまで何とか食い下がっていたザックスだったが、次第に余裕が無くなり息があがり始めると共に足元がグラつき始めた。
『もう終いか?ザックス』
『まっ!まだまだぁ!!』
 アンジールの耳に、まるで映画を観るかのように2人の声が鮮明に聞こえる。今まで何度も聞いた、どんな厳しい状況でもバトル中には絶対に弱音を吐かないザックスのハリのある声だ。
『俺も…ッ、1stになるんだ!』
 負けん気で答えるザックスだが次第に体の軸はブレ始め、剣は瞬く間に乱れ始める。その隙を知らしめるようにセフィロスは正宗を一振りすると、ザックスの頬に一筋の赤い筋を作った。
『…ツ!』
『そろそろ飽きた。終わりにする』
『畜生っ!させるか!!』
 左右双方から同時に煽ってくるような正宗の太刀筋から必死に身を交わし、呼吸を止めて後方へと転がると空中へと高く飛ぶ。するとザックスは滞空でバランスを維持したまま、剣に装備したマテリアにその波動を込めた。
 
「?!何をする気だ?!」
 それを見ていたアンジールが思わず身を乗り出す。
「まあ、見ておけ。今日こそは『メテオショット』が成功しそうだ」
「メテオショット?何だそれは」
「仔犬が自分で考えた必殺技だそうだ」
「必殺技?」

『行ッけェェェェェェェ!!』
 充分な波動を込めた剣に力を込め、全身のバネを使いめいいっぱいの力で振り下ろす。
 するとそこから現れた隕石状のエネルギー弾がいくつも出現し、地上にいたセフィロスの元へ爆風を上げて着弾した。
『やったああああ!出来たあああああ!』
 ザックスは歓喜の声を響かせると、そのまま地上へと降り着地する。
 その目の前では爆煙が流れ消え、そこには軽いガードをしたセフィロスが穏やかな笑みを浮かべたまま立っていた。
『出来たようだな』
『うん!な!凄い?!俺、すごかったろ?!』
『取得までの早さで言えば上出来だ。だが、技としてはまだ威力が弱すぎる。ジェネシスにもっと魔力を鍛えてもらえ』
『うん!よっしゃぁぁ~!』
 セフィロスに褒められ、嬉しそうな満面の笑みで拳を握る。そんなザックスに小さく微笑むと、セフィロスはその頬につけた赤い傷を指先で拭うようにケアルをかけてやった。
『ありがとう、セフィロス』
 その魔法の暖かさに、ザックスはまた嬉しそうにはにかんで笑った。




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