■ 世界一の名バディ 
02 



「1stになったら、こんな思いもしねぇのかな…」
 携帯のフリップを開け、アンジールの番号を表示する。
 アンジールがミッション中である以上、ザックスから私用でかけることは許されない。ましてや「寂しい」だなんて、言えやしない。
「メリー、クリスマス。アンジール…」
 文字だけの名前に向かって呟くと、ザックスはそのままテーブルの上に置いた。
「酒でも飲も」
 ガブ飲みすればさすがに眠るだろうと、いささか荒療治の睡眠法を決めてソファから立ち上がろうとしたその時、

 RRR… RRR…

 閉じたばかりの携帯が鳴り、ザックスはその画面に表示された宛先の名前に目を開く。
「ア、アンジール!?」
 慌てて携帯に飛びつき電話に出ると、かぶりつくように話始めた。
「もしもし!アンジール!?アンジールなのか?」
『どうした?何かあったのか、ザックス』
「え?どうしたのって、どうしたの?!アンジール」
『?いや?お前の方がどうした?』
「え?俺?なんで?」
『…いや、だから…』
「え?」
 ザックスの慌てぶりに驚いたアンジールが咄嗟に聞き返してしまい、それが理解できなかったザックスがさらに聞き返し、結局互いに聞きあうという何がなんだか分からない状況に陥り、2人は疑問符だらけの会話にしばし言葉が途切れた。
『……』
「……」
 だが、それも心配するほども無い事だと察すると、アンジールは小さく笑い改めて話を始める。

『お前に何も無いならそれでいい。元気なんだな?』
「あ、うん。元気」
『そうか。ならいい、安心した』
「アンジール…」
 アンジールの優しい声に言われザックスの胸はキュンと締め付けられる。
 今、危険な場所にいるのはアンジールの方なのだ。こんな平和な場所でぬくぬくと暇をもてあましている自分ではない。
「アンジールは?無事?」
『ああ、問題ない』
「ミッションは順調?」
『予定通りだ』
「そっか…良かった」
 そこまで聞いてザックスはそっと目を伏せた。
 ミッションに向かったソルジャーに願う事はただひとつ。無事にありますように。無事で帰ってきますように。祈ることも確かめることもただそれだけだ。


『急に電話をして悪かった。お前の声が急に聞きたくなってな…今、大丈夫か?』
「うん、全然平気」
 声が聞きたかったのはザックスも同じだった。それがアンジールも同じだったことが分かり自然と頬が緩む。
『やけに回りが静かだが、何処にいるんだ?』
「家。テレビ付いてないからじゃない?」
『家?もう帰ってきたのか?』
「え?帰ってきたってなに?」
 アンジールの意外そうな声にザックスは首を傾げた。
 ザックスに今日出かける予定もなければ、どこかに行くとアンジールに言った覚えもない。
『どこかに遊びに行ったんじゃないのか?』
「行ってないよ。コンビニにおにぎり買いには行ったけど、なんで?」
『……』
「アンジール?」
『…クリスマスだろう…』
「は?」
 そして今度は、アンジールの渋そうに話す声にザックスの方が意外な声をあげた。
 
 確かに今日はイブだ。クリスマスを楽しむ人々が一晩中その宴に酔いしれている。
 だがそれも平和な環境にいる者のみのこと。
 過酷なミッションの中にいるソルジャーが気にして出す言葉としては、あまりそぐわない。
「確かにクリスマスだけど…」
『クリスマスが好きなんだろう?一ヶ月も前からツリーを出していたじゃないか』
「う、うん。そうだけど…」
 家には大きなツリーがあった。アンジールに「まだ早い」と叱られつつも、待ちきれないとばかりにザックスが飾っていた大きなクリスマスツリー。アンジールがミッションに出てすぐに片付けてしまったけれど。
『仲間と計画はしなかったのか?』
「やろうとは沢山言われたけど…」
『まさか全部断ったのか』
「う、うん…」
『何故だ?』
「…えと…その。…なんとなく」
 次々と続くアンジールのお説教めいた言及にザックスはしどろもどろになる。
 任務に赴いた恋人に、クリスマスに遊んでいないと叱られる。これはいったいどういう状態なのだろう。
『そんな理由でお前は今1人でいるのか』
「ご、ごめん…」
『全く何のためにミッドガルに残したと…』
「…え?」
「…あ、いや…」
 口が滑ったとばかりにアンジールは慌てて口を閉じる。
 そこでザックスはやっとある仮定に気がつき目を開いた。

 まさか。まさかとは思うが…まさか。




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