■ 世界一の名バディ 
01 



 「つまんねぇなぁ…」
 ザックスは1人、夜食のカップ麺を食べながら誰もいないリビングの時計を見上げた。
 時刻は夜10時。
 今日はイブだ。

 街がもっとも華やぎ、恋人の有無に関わらず誰もがどこかで賑わうこの時期。今夜はどこもかしもクリスマス・イヴで華やいでいた。
 想いを伝え合う恋人達。夢を追う小さな子供たちを暖かく包む家族。恋人はいなくても共に過ごせる仲間達。
 そんな人々がどこかで幸せを感じあえる、寒くても暖かな日。それがクリスマスだ。
 お祭り好きで友達の多いザックスならば、当然その輪の中心にいる。と、誰もが思うだろう。
 だが、現実にはザックスは1人きり。他の誰もいないリビングのソファに座り、コンビニのおにぎりと安いカップ麺で夜食を取っていた。

「はぁ……」

 クリスマスを彩る番組ばかりのテレビは消してしまった。
 ゲ-ムをやってもどうにもつまらなく、音楽をかけても耳には入ってこず、結局全ての音源を切ってしまったために今は何の音もない。
 溜め息を付けばそれがやけに大きく響くほどの静寂。
 数日前まであった部屋のツリーもかたずけてしまった。そんな寂しすぎるクリスマスだった。
「…ん~…なんもすることねぇ!」
 暇をもてあまして自分の頭をバリバリと掻いた。
 することが無いなら寝ればよいのだが、ベッドに入ってもどうしても寝付けなく、仕方なしに起きてきてもやはりすることもない。こうしてただ無駄に時間を潰しているのが現状だった。

 ザックスはクリスマスが嫌いなワケではない。どちらかと言えば率先して楽しむタイプだ、リーダー格とすら言っていい。
 そんなザックスがこの日に1人でいるワケはただひとつ。
 「アンジール…」
 アンジールがミッドガルにいない。
 「何してっかなぁ…」
 何も写さない窓の外の暗闇に目を向け、遠い土地にいる年上の恋人を想った。



 アンジールが遠い地のミッションに出たのは一週間前。
 公私共に深い絆を持つアンジールとザックスは、仕事においてもバディを組んでいる。
 阿吽の呼吸で行動しミッションを潤滑に進めて行くそのコンビネーションは、他のソルジャーからも高く評価されるほどだった。
『俺達は世界一の名バディ!』と、ザックス自身も自負するほどそれは大きな自信でもあったのだ。
 当然、今回のミッションも組むとザックスは思っていたのだが…

「今回は来なくていい」
 アンジールにそうハッキリといい切られてしまった日のことを思い出す。
「どうして?!10日間もある任務なんだろ?!俺も行くよ」
「内容はそれほど難しくない。期間が決まっているだけだ」
「1stが行く任務に難しくないもんなんてあるかよ!」
「いいからお前は来るな」
「アンジール!」
「何度も言わせるな」
 詰め寄るザックスにアンジールは「来なくていい」の一点張りだった。そのことが、ザックスの自信にヒビを入れていった。

「なんでだよ!俺はまだそんなに足手まといかよっ!」
 1人になった後、力任せに拳を壁にたたきつけて項垂れる。
 任務内容が過酷だからザックスでは役に立たない。本格的なアンジールの仕事にザックスは邪魔。
 そう言われているようで悔しかった。
『世界一の名バディ』なんて自負していたことが情けなかった。

 ミッションに関係しないものがその詳細を知ることは出来ない。そのため、結局メンバーから外されたザックスにはその理由もミッションの内容も分からないままだった。
 上官であるアンジールがそう判断したのだからそれが適切なのだと、ザックスは無理にでも飲み込むしかない。
 それがプライベートでの恋人以上に重視される、仕事における2人の上下関係だった。
 1stと2ndの差は大きい。
 近くにいるようでこんなにも遠い。それがソルジャー1stのアンジールだった。




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