■ 世界一の名バディ 
03 



「アンジール?」
『な、なんだ?』
「もしかして…俺にクリスマスを楽しませる為においてった?」
『……』
「…マジ…?」

 どうしても連れていってもらえなかったミッション。
 確かにアンジールは言っていた。それは難易度よりも期間が決まっているものだと。
 つまりミッションに行けばクリスマスは祝えない。
 だからこそアンジールはザックスを置いていったのだ。楽しみにしていたクリスマスを、楽しんでもらう為に。

「…アンジール」
『…ああ…』
「…ばか」
『…………すまん』

 友達の多いザックス。確かに仲間を集めれば楽しいクリスマスが過ごせるだろう。
 でも、一番大好きな人が任務に赴いていたらそっちの方が気になって楽しくなんて過ごせない。
 そんなことも分からないなんて、なんてアンジールは大馬鹿なんだと、ザックスは泣きそうになるのを我慢して眉を寄せた。

「アンジールのバカ。アホ」
『……すまない。言うつもりはなかった』
「そんなことじゃないだろ」
『分かってる…』
「嘘だ。分かってない」
『分かってる!…でなきゃこんな風にお前に電話をしたりしない』
「……っ」
 ぐすりとザックスが小さく鼻をすすった。
「…分かんの、遅せーよ…」
 電話で涙声はいけないと思ってきたが、今日は構わない。こんなことも分かっていなかったアンジールが悪いのだ。

「俺…アンジールが好きだよ」
『……ああ』
「2人でいる時だけじゃなくて、ソルジャーとしてのアンジールもカッコイイと思うし、心から尊敬してる」
『……』
「だからミッションだって頑張れるし、もっとアンジールに頼りにされるようになりたいと思ってる」
『……』
「俺、もう子供じゃない。ちゃんと仕事頑張るからさ…」
『……』
「だから…」
『…ザックス…』
「だから、そんな理由で俺を置いてくなよ…」
『1人にして、悪かった…』

 ザックスの目からポロリと涙が零れた。

「…ッ、ァンジールゥ…」
『俺も、もう後悔したくはない』
「寂しぃ…」
『…俺もだ』

 堰を切ったようにポロポロと頬を流れ落ちる弱音は、心の底から安心しているから。
 寂しいと思うのは、それだけ相手を想っているから。
 甘えたい気持ちも、守られたい気持ちがある。だけどそれだけじゃソルジャーはやっていけない。
 今はまだまだ高い所にある目標でも、いつか必ず追いついて並びたい。
 絶対的な信頼と、誰にも負けない阿吽の呼吸が当たり前になる絆。それこそがまさに世界で一番、世界でただひとつの頂点だ。
 自分にとってのアンジールがそうであるように、アンジールにとっての自分もそうなりたいと、ザックスは真剣に思っている。
 仕事でもプライベートでも、世界一の名バディになりたいと。


「…ぐすっ……ひっく…」
『電話だと抱きしめてやれないのが辛いな』
「知らねぇよ…勝手に行った方が悪いんだろ…っ!」
『だな。俺にこれほど反省させるのはお前くらいだ』

 電話で交わされるのは、涙をすする音とそれを宥める優しい声。
 濃密な恋人達の聖夜ではないが、心はぬくもりを感じるほどに近い。
 こんなに通じ合えるのならば、こんなクリスマスもいいのかもしれない。

「上から言うなっ…ぐすっ…もっと謝れ!」
『謝っている間、電話を切らないでいてくれるなら何度でも?』
「な、なに言ってんだよ…っ!」
『切るのか?』
「切るワケないだろ!」

 そして何倍も元気になったザックスの声に、アンジールもまた元気をもらえるのだ。

『帰ったら、プレゼントを買いに行こう。クリスマスには遅いが何か考えておいてくれ』
「プレゼントはいいよ。それよりお土産が欲しい」
『土産?』
「うん、ミッション帰りになんかお土産」
『……ここは孤島なんだが…』
「欲しい」
『あのな、ザックス』
「おーみーやーげー」
『……お前、もう子供じゃないんじゃなかったのか…』


 元気になったついでに、ちょっと甘えてみるのもザックスの御愛嬌。
 困りながらも何とかしようと悩むいつものアンジールに、いつしかザックスも笑顔になっていた。






end.




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