■ After The Battle 第二章 第1話 金の糸 05 |
「よっしゃー! 仕事終わりーー!」 デスクから顔をパッとあげると、ザックスはウーンと大きく背伸びをする。 時刻は午後8時過ぎ。重役会議に出たセフィロスが戻るまで、あと少しばかり時間ある。すると、何かを思いついたように、執務室のパソコンを操作し始めた。 「今のうちに」 アクセス先は、現在行われているソルジャー試験の進捗状況だ。 「過酷だって聞いたからなぁ…」 特例処置でソルジャーとなったザックスは、このソルジャー試験を受けてはいない。だが、この試験の厳しさは仲間のソルジャー達から話を聞いている。 通常任務と平行して行われるこの試験は、睡眠時間はもちろん、体力、気力を奪われ、過度なストレスでノイローゼとなり脱落する者も多いのだという。意地で脱落を拒否した結果、無理が祟り命を落とすケースも珍しくない。 実際、昨年の試験は8人の死者と24人の重傷者が出している。 「チャンスは一度じゃないんだ。どうか無理しないでくれよ…」 それは全ての受験兵士に言える事だが、ザックスの脳裏には特にクラウドの顔が浮かんだ。 まだ入社したばかりのクラウドは任務内容が軽く、試験対策の時間は作りやすいが、どうしてもメンタルなどの経験値は積みきれない。それがどう試験に影響するかだ。 「無茶しないでいてくれりゃいいけど」 セフィロスには『執着をしない』と約束をした。それを裏切るわけにはいかない。が、願わずにもいられないのだ。 ちょっとだけ、ちょっと様子を見るだけ…。 ザックスはそう自分に言い訳をしながら、表示された情報に目を走らせた。 「やった! すげぇ、クラウド!」 現在の進捗は実戦試験の完了まで。ここまで残った志願兵は全部で32名。そのトップ欄に、クラウドはいた。 クラウド個人の成績を開けば、素行調査に問題はなく、身体が小さい事がマイナスにはなったものの、健康状態も良好、運動神経・反射神経共に優良。筆記、実戦ともにトップクラスの成績を残し、難関と言われる基準を順調にクリアしている。 新人兵士でありながらのこの結果は、今年の最有力候補と言っていい。 「すげぇ…。あいつ、もしかしたら凄い才能があるんじゃないか?」 腹の底から湧き立ってくる喜びに、左手の拳を右手でパンッと鳴らした。 あの日見たクラウドは、身体は小さくても背筋をピンと伸ばし、芯の強そうな目で毅然と立っていた。 入社した年にソルジャー志願の登録をした事をとっても、相当気合を入れてこのミッドガルに来たことは間違いない。そして、それに見合うだけの結果を出している。となれば、自ずと期待は高まっていく。 「明日はいよいよ適正検査か。明日は俺もミッション入って無いし、これならすぐに結果が分かるな。よしよし、がんばれよクラウド!」 合格祝いをしてやるわけにはいかないが、せめて朗報を喜びたい。 そして近い将来、自分の前にソルジャーとして現れるクラウドに思いをはせ、ザックスは目を輝かせた。 「クラウドがソルジャーになったら、俺の後輩かー。…へへ、今度こそちゃん出会えるな」 かつて保育器の中にずっと眠っていた小さな赤ん坊の手は、ミニチュアのように小さかった。まだ幼く小さかった自分の手と比べても、もっともっと小さい手だった。その手が動くまで、何十分も見続けていたのを今でも覚えている。 あの手に、あの細い髪に、今度こそ触れられるかもしれない。そうと思うと、自然とザックスの顔は綻んだ。 「えへへ」 「何をニヤついているんだ、ザックス」 「え?」 かけられた声に振り返ると、入り口には会議から帰ってきたセフィロスがいた。 「おかえり! おつかれさま!」 「ああ」 急いで席を立ちあがり駆け寄ったザックスに資料を渡すと、セフィロスは執務室の中央にある黒い革張りのソファに向かい、投げ出すようにドカリと座る。 そのまま背もたれに頭部を預け目を閉じ、疲れたようにフゥーと重い息を吐いた。 「…今回も大変だった?」 「……一段とな」 真一文字に結ばれた唇は不快感を表すように硬く結ばれ、眉間はきつく寄せられ険しさを増す。 重役会議に参加した後のセフィロスは得てして機嫌が悪いが、今日はそれに一段と輪をかけている。何かがあったのは一目瞭然だが、そこにすぐに触れてはいけない事はザックスも学習済みだ。 「コーヒーを淹れるよ。この前、新しいブレンドを作ったんだ。まずはそれで一息つこうぜ」 手元の資料を手際よく整理しながら話しかける。 「…ブレンド?」 「うん。セフィロスが好きそうなのを作りたくてさ。だから、試して欲しいなーって。いい?」 「…ああ」 勤めて明るく振舞うザックス声にようやくセフィロスが振り返ると、ザックスはニッコリと笑ってみせた。 「了解。 実は自信作なんだ。美味過ぎてビックリすんなよ!」 最後の書類を仕舞い、嬉しそうな笑顔でパタパタと走って行く。その後ろ姿にセフィロスは優しく目を細める、やっと安心したように肩の力を抜いた。 |
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