■ After The Battle 
第二章 
第1話 金の糸 06 


  
「ジェネシスが、全ての任務を放棄した」
「え?」
 ザックスが淹れたコーヒーが半分ほど無くなり、セフィロスの苛立ちもすっかり落ち着いた頃。淡々とした口調でセフィロスが告げた言葉は、隣に座って聞いていたザックスを驚かせるに充分だった。
「ジェネシスが、全部?」
「ああ。予定されていた任務を含め、現在存在するミッション全てだ。ラザードはそれを理由に上層部からつるし上げられ、俺まで巻き込まれた」
 全く迷惑な話だ、とセフィロスは思い出したように眉を顰めると、残りのコーヒーを口にする。
「ジェネシスが…なんで」
 そのあまりにも意外すぎる行いに、ザックスは眉を歪ませた。
 クラス1stは、その特権として『任務の拒否権』をもつ。だがそれは、数多の激務に対しある程度の選択肢があるという意味であり、全ての任務を拒否していいという意味ではない。
 神羅の生きた戦闘兵器であるソルジャーがその役目を完全に拒否したとなれば、自ずとその存在意義は失われる。ソルジャー・クラス1stとして、誰よりも高いプライドを持つジェネシスが選択する行動とはとても思えなかった。
 そしてそれは、セフィロスも同じだ。
「分からん。だが、この件はラザードが認めている。統括の承認がある以上、俺にはどうする事もできない」
「何かあったのかもしれない。直接ジェネシスに話を聞いてみようよ」
 が、身を乗り出してくるザックスに、セフィロスは頭を振る。
「どうだろうな。ラザードを問い詰めてみたが、肝心な所は口を濁した。もしかしたら、何らかの極秘任務が行われているのかもしれない。だとすれば、ジェネシスの仕事に俺が口出しをするわけにはいかない。命令でもない限りはな」
「でも、"もしかしたら"だろ?」
「ラザード直下の極秘任務は、俺にも確かめようがない」
「けど」
「ザックス。ジェネシスはクラス1stだ」
 なおも食い下がろうとするザックスを、セフィロスはピシャリと止めた。
「けど…」
 そんなセフィロスに、ザックスは渋い表情を作るように眉頭を寄せ俯いた。
 ソルジャーの本質は『個』だ。
 各々が戦闘のプロであり、互いが独立している。その上で互いに繋がりを持ち、信頼と敬意の元、仲間あるいは組織として存在するのだ。
 そんなプロ同士である以上、互いの仕事に余計な詮索や口出しをしないのがルールとなる。ましてや、クラス1st同士ならばなおさらだ。
 ザックス自身もそれを頭では分かっている。分かってはいるが、どうしても釈然としないものに苦虫を噛んだ。
「なんだ」
「"心配"は別だろ」
「……」
「それに、仕事なら仕事で何か他に言いようがあるじゃないか。任務の放棄なんて、ジェネシスひとりが悪くなるのは納得がいかない」
「そんな事か」
「そんな事って言うなよ。あんただって本当は同じだろ。だからあんなに怒って帰って来たんだろ!」
「……」
 ザックスに痛い所をつかれ、切れ長の銀の眉がピクリと動く。
「それも任務なら仕方が無い、なんて言うなよな。俺達のためにジェネシスがしてくれた事を思えば、そんな模範的なルールなんてどうだっていいだろっ」
 確かにその通りなのだ。それはセフィロス自身も頭で分かっているし、身にも染みている。なにより、無能な幹部達の口から出る親友への悪口にハラワタが煮えくり返ったのは、少し前に起こった現実なのだ。
 セフィロスは降参するように、軽く両手をあげた。
「悪かった。俺の負けだ」
 その一言にザックスはパッと表情を明るくする。
「ほら、一緒じゃん! な、ジェネシスの所に行こう」
「ああ。だが、すぐには無理だな。肝心のジェネシスと連絡がつかない。それに、俺達にはすぐにやるべき事がある」
「やるべき事?」 
「あの幹部共を即刻黙らせる。ザックス、ジェネシスの代わりに俺達が任務に行くぞ!」
「――っ! 了解!!」
 早速立ち上がるセフィロスに続き、ザックスも勢いよく席を立ちあがる。
「全ての準備を整え、明日にはミッドガルを発つ。急ぐぞ」
「ぁ――、」
 『明日』と聞き、ザックスの頭に一瞬クラウドの姿がよぎる。だが、ザックスはそれをすぐに打ち消した。
「どうした」
「なんでもない。急ごう、セフィロス」


 クラウドならきっと大丈夫。
 かならず、無事に適性検査をクリアしてくれる――。

 ザックスはそう自分に言い聞かせ、セフィロスの後に続いた。
 

 

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