■ After The Battle 第二章 第1話 金の糸 03 |
「これがどうした?」 だが、取り立てて特別な記述があるわけではない。この人物の何がそんなに気になったのか、セフィロスには予想もつかなかった。 「俺が小さい時に、ちょっとだけ一緒に住んでた事があるんだ」 「一緒に?」 だが、ザックスの意外な答えにセフィロスは眉をあげる。 「どういうことだ?」 「住んでたっていうとちょっとオーバーかな、同じ部屋にいたって感じなんだけど…」 「いいから話せ」 「あぁ、うん。えっと…」 セフィロスに急かされ、ザックスはどこから話そうかと考えるように一瞬だけ視線を降ろすと、再びセフィロスを見上げて話を始めた。 「実は俺…、ゴンガガの生まれじゃないんだ」 「ゴンガガじゃない? 確かお前のデータには生まれも育ちもゴンガガとなっていたはずだが?」 不穏分子排除のため、神羅に入社する際には詳細な身元証明の開示が義務づけられている。その後の会社による確認調査でも、ザックスの出身はゴンガガと記録されていた。他の地域の記録はない。 「うん。でも本当はちょっと違うんだ。村の全員が俺を気遣って記録を作ったり、口を揃えてくれたんだよ。『ザックスは最初からこの村の子で、あなたの両親は本当のお父さんとお母さんなんだよ』って、俺があの村に来た時から、村全部で俺を受け入れてくれたんだ」 「……」 「いい村だろ? 俺が普通の子供だったらそれを信じて育ったと思う。でも俺は、自分の記憶を忘れないから…それが村のみんなの優しい嘘だって知ってる。けど、とーちゃんもかーちゃんも本当の親だと思ってるし、俺はちゃんと自分がゴンガガの人間だって胸張って言えるよ」 この故郷が大好きなんだとザックスは微笑む。 セフィロスの中でそのザックスの微笑みが、かつて見たアンジールとジェネシスの笑顔と重なった。愛する故郷のある者の笑み。故郷の無いセフィロスには無いものだ。 「……」 なぜかその度に感じるやりきれない想いを消去するように、セフィロスは首を振る。 今は、ザックスの過去に隠されていた秘密がある事を知る方が先決なのだ。 「俺の記憶は、俺が2歳と7日の日から始まってる」 ザックスは笑顔を戻すと、話を続けた。 「その時俺は、三角の天井と、ベットと機械が沢山ある部屋で暮らしてた。俺はそこでずっと、薬を飲んだり検査してたりしたんだ」 「薬? 検査だと?」 「うん。何の薬で何の検査かは分からない。ずっと頭がボーッとしてたから、何かの病気だったのかもしれない」 「場所は?」 その問いにザックスは首を振った。 「分からない。窓はあったけど高くて外の景色は見えなかった。そこから見える空はいつも真っ白でさ、俺の世話をしてた男の人が、外は雪が降ってるんだって教えてくれた。俺は外には出られなかったけど、時々綺麗な女の人がその雪を持って来てくれて、一緒に遊んだりしたよ」 「雪、か…」 セフィロスは頭の中にある地図を広げ、その中から雪の降る地域を選出する。この星で雪が降り、なおかつ人里がある場所は少ない。 「少なくてもゴンガガに雪は降らないな。それが、お前がゴンガガの生まれではないという根拠か」 「うん、そう。あと、かーちゃんが最初に「今日からウチの子だよ」って言ったから」 なるほど、とセフィロスが頷く。 「クラウドは、そんな部屋にやってきた小さな赤ん坊だった。俺よりもずっとずっと小さくて、チューブに繋がれたままケースの中にいたんだ。俺はそんな小さなクラウドを、ケースの外からずっと覗いて見てた。だから、大きくなっても顔の面影で分かる」 「それはいつまで続いた」 「4ヶ月。突然眠らされて、目が覚めたら俺はゴンガガの家にいた。何がどうなったのかさっぱり分からなくて、何度もみんなを探したけど、誰もどこにもいなくてさ…以来、それっきり」 「だから今日、会いに行ったのか」 「うん。今でもあの時のみんなはどうしたんだろうって思うから。あそこがどこで、何故俺だけゴンガガにいたのかはどうでもいい…って言ったら嘘になるけど、でもいいんだ。クラウドだけでも、元気でいるのが分かって良かった」 「……」 そう言って懐かしそうに笑うザックスを、セフィロスは力を込めて抱きしめた。 「セフィロス、納得した?」 「…分かった…。が、これ以上、お前はソイツに執着をするな」 「え?」 「お前が執着すれば俺は嫌でも気にかかる。そうすれば、科研が動きかねないという事だ。分かるな?」 「……」 科研にとって最も興味深い対象は、常にセフィロスだ。 セフィロスが寄せる関心、セフィロスが示す興味、セフィロスが欲しがる対象、それらに関する事にはあらゆる手段を使ってでも食指を伸ばしてくる。3年前に、ザックスがそれに巻き込まれたように。 「分かった。俺はあんただけを見てる」 クラウドを同じように巻き込むわけには行かない。ザックスは頷くと再びセフィロスに深く口付けた。服従の口付けだった。 |
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