■ After The Battle 第二章 第1話 金の糸 02 |
「今日の特訓はどうだったんだ?」 その日の夜、夕食作りにキッチンを動き回るザックスの背に、セフィロスは小さくつぶやくような声をかけた。 「もちろんバッチリ!」 だかそんな小さな声も聞き漏らすことなく、ザックスは調理の手を止めないまま元気に答える。その反応の良さにセフィロスは満足そうに微笑んだ。 ザックスがセフィロスの元に来たあの日から2年。 セフィロスの要求通り、ザックスはセフィロスに追いつく為の努力に全力を捧げてきた。 全ての遅れを取り戻す厳しい訓練と徹底的な身体作り。くる日もくる日も繰り返されるそれに、決して根をあげる事なく食らいつき、努力を怠らない。 そしてセフィロスの副官も勤めるザックスは、デスクワークの面でも鍛えられ、元来のセンスと能力もあいまり周囲も驚くほどの成長と実績をあげた。 今では2ndの中でも、次期1st候補として名が上がるほどの上位組となっている。 ザックスは、確実にセフィロスに近づいているのだ。 だがその分、2人がこうして任務の枠から外れて過ごす時間は極めて少ない。 仕事とプライベートが常に交じりって存在するのがソルジャーだが、それでも仕事から一番かけ離れた状態は、唯一気持ちをリラックスさせることに変わりはない。セフィロスは、そんな時間には必ずザックスを傍らに置いていた。 「俺の必殺技も威力上がってきてさ、レベルB++モンスターも余裕で倒せるようになったんだ。でさ、アンジールがそろそろハードラッシュを教えてもいいって! アンジールがそう言ったんだぜ! な、俺すごくね?」 鍋のシチューをレードルで混ぜながら、嬉しそうにガッツポーズを取るザックスを後ろから抱きしめると、セフィロスはその動物の毛並みのような漆黒の髪に顎を乗せる。 2年前までは顎を乗せる事も叶わないほど小さなザックスだったが、今はそれが可能になった。それほどザックスの身体は成長し背も伸びたのだ。 「ああ、すごいな」 「だろー? ジェネシスのアポカリプスも何となくイメージ掴めてきたし、俺、絶対にマスターするんだ。そんで、アポカリプスとハードラッシュを覚えたら、次は八刀一閃! 約束したんだから、絶対に教えてくれよな、セフィロス!」 「ああ」 「よしっ! がんばるぞ!」 顎から感じる振動で、顔は見なくても嬉しそうに笑うザックスの笑顔が分かる。セフィロスはそのくすぐったさにクスクスと笑った。 「そういえば、ザックス」 「ん?」 「今日はアンジールと何をしに、エントランスに行ったんだ?」 「……」 セフィロスの声の中に僅かばかりのピリッとしたものが混じっている事に気がつき、ザックスはそっと鍋の火を止めた。 今日のトレーニングの前にエントランスに寄る事を、セフィロスには告げずに行った。途中で思いついて寄ったのではなく、行こうとして行ったのだ。 そこにやましい事は何も無い。だが、普段なら言いそうなことをあえて言わずに行ったのは事実だ。そのセフィロスを切り離したザックスの小さな行動を、セフィロスは敏感に感じ取っている。 それを察したザックスは、セフィロスの腕の中で身体を反転すると、セフィロスの顔を真っ直ぐに見上げた。 「ごめん、内緒にするつもりは無かった」 内緒という言葉にセフィロスの眉がわずかに歪む。ザックスはそれに困ったように眉尻を下げた。 「新人兵士が来てたから、アンジールと見に行ってたんだ」 「新人兵士ならば、資料で既に確認済みだろう」 「だからだよ。どうしても直接見たいのがいたんだ」 「先に言えば俺も行ってやったのに」 「あんたが行ったら皆喜んでパニックになっちゃうだろ? 黙って行ったのは謝るよ、ごめん」 だから機嫌直せって。と、ザックスは少し不機嫌なセフィロスの首に手を回し、少し屈むように引きながら自分も背伸びをし、やっと届くキスを送る。セフィロスはザックスの背に腕を回すと、そのまま捕まえるように抱き締めた。 「誰だ?」 まっすぐに見上げてくるセフィロスの真剣な目に、ザックスは作り笑顔を浮かべると覚悟を決めた。 もうこうなってしまうと、彼が納得をするまで話さなければ許してはもらえない。それに、セフィロスには全てを明け渡すよう言われている。セフィロスに隠し事はご法度なのだ。 「クラウド・ストライフ」 ザックスは素直にその名を告げた。 「クラウド・ストライフ?」 「そう。ニブルヘイムから来たクラウド。ID:N0094j228w。リストの中にいたろ?」 ザックスに言われ、セフィロスも記憶の中の資料をめくる。 「ああ。いるな」 ザックスの言ったIDのページを開き、顔写真を確認する。名前はクラウド・ストライフ。ニブルヘイムから来たばかりの14歳。ソルジャー志願者だ。 |
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