■ After The Battle 
第一章 
第5話 終焉の月 10 

  
 
 
 太陽が落ち茜色に染まる頃、一面に広がっていた青一色の世界は空と海に分かれ始める。
 その宵闇が迫る中を、一台の飛空挺が翔け抜けていた。
「救難信号確認!92KJO3759-LJ044-T003!海底二三〇、ポイントR35-26ーD7目的の潜水艦だと思われます!」
 ピンと空気の張り詰めたコックピットの中に、乗組員の声が飛ぶ。その報告を最も待ち望んでいた男、セフィロスはゆっくりとその両瞼を開いた。
「……」
「やっと見つかった…、か」
 隣にいたジェネシスがもの言わぬセフィロスを代弁するようにポツリと呟いた。
「行くんだろう?」
「…ああ。 行こう」
 ジェネシスはそれに頷くと、コックピット全体に支持を出す。
「ただちに向え!応答後、妨害電波を発信。近隣の軍に悟らせるな!」
「了解!」
 飛空挺が旋回し速度が上がる。
「LJ0…『脱出可能』か。小僧といえどさすがはタークス…、子犬だけならこうはいかない」
「ジェネシス」
「なんだ」
「艦を捕獲してくれ。…俺がやる」
「…分かった」
 飛空挺は真っ直ぐにその場所へ進んで行った。
 

 
「マジかよ、向こうから切りやがった」
 レノは停止した通信機器を前に一瞬愕然とし、そして口を真一文字に結ぶと思案をするように指先でトントンと軽く計器を叩く。
「まてよ…って事は…」
 時間も猶予もない状況に救難信号には可能な限りの情報を最低限の暗号で送りつけた。それに応答したという事は全てを了解したという事に間違いはない。だが直後に切るという事は…
「他には気付かせたくない何か……」
 そして何かに気がつきハッと手を止める。
「そうか、軍か…!」
 たった1人のソルジャーに奪われたなど、軍の面子が丸潰れも同然なのだ。そうならないためにも、軍はこれを揉み消したいはず、おそらくは発見し次第容赦なくミサイルを撃ち込む事ぐらいはするだろう。それほど、ソルジャーというものに軍は立場を追いこまれているのだ。
「やべぇぞ、のんびりしていらんねぇ!」
 たとえ万に一つの可能性でも、ミサイルが打ち込まれれば助かる可能性はない。一刻も早い脱出が必要だ。だが、
「あいつを連れてかなきゃいけねぇんだよ!畜生、どこだ!」
 この艦のどこかで時間を稼いでいるザックスを探さなければならない。レノはすでに存在がバレているのを承知で全ての計器のスイッチを入れ起動をかけた。
 使用されている機器、異常が出ている場所、何でもいい。そこに人がいる情報が必要なのだ。だが、その気配はどこにもない。
「くそっ!どこだ!」
 だがその気配は突然起こる。
 目を走らせるレノの背後で、ハッチのノブが動いたのだ。
「!」
 そして振り向いたレノの視界の中、ゆっくりとその厚いドアが開く。
「やぁ、タークス…。誰かをお探しかい?」
「……」
 そこには返り血のついたエヴァンが立っていた。一見は穏やかな笑顔でコックピットに入ってくるが、その表情に生気はない。レノは警戒するように利き手にロッドを握りしめた。
「これを強奪する時、誰も残らないよう逃げる時間はやったはずだ…自分の意志で残ったのかな?」
「……」
 エヴァンの背後から血の匂いと共にベチャリと濡れたものを引き摺る音がし、レノは眉をしかめた。
「それとも、君のターゲットでもいるのかい?」
 やがてエヴァンの後ろから四足の生き物が姿を現す。
 大きく裂けた口から真っ赤な血を滴らせ、血にまみれた人間の腕を噛んだままズルズルと引き摺る。
「ロイ、置いて」
 エヴァンの指示でレノの前に置かれたそれは、頭から血にまみれ蒼い顔をしたザックスだった。
「……ソルジャーは…仲間意識が強ぇんじゃなかったのかよ…っ!」
 レノの瞳に、明らかな怒りの色が浮かんでいた。
 
 

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