■ After The Battle 
第一章 
第5話 終焉の月 05 

  
 
 アンジールの執務室に、カンセルが急ぎ足で飛び込んで来る。
「サー!解析できました!やはり声紋はエヴァンのものです」
「足取りは?!」
「経過は後ほど、おそらく現在はここです」
 カンセルが差し出した紙に書かれた文字に目を通すと、アンジールは立ち上がり軍の通信部へと走る。その後についたカンセルは、道すがらかいつまんだ報告を始めた。
「今朝方、七番街から無許可の小型飛空挺が離陸、西へ向かったのが確認されています。同機はその後、西の山間付近で発見。中に人はいませんでしたが、近くにある建造中の軍の港で、調査のために接岸していた潜水艦が何者かにより奪取される事件が起こりました。軍は現在も血眼になって探しています。その際に怪我をした兵士の話では、肩に大きな荷を担いだ2ndソルジャーが、布を被せた四足の動物らしき何かを連れて突然襲ってきたそうです。…この現状では、エヴァンの仕業と考えるのが妥当でしょう」
「最初から潜水艦が狙いだったとすれば、計画的な行動というわけか」
「ザックスの拉致に関しては偶然性が残りますが、それ以外に関してはそうとしか言えません。…ですが、目的は何でしょう。『計画的脱走』と言うには、潜水艦を使うのはあまりにもリスクが大きすぎる。ソルジャーの判断とは思えません」
「おそらく、『脱走』ではないからだろう…」
「というと?」
「……」

 長い廊下と通り、周囲の静止を無視しながら通信室へと強引に入ると、アンジールはバスターソードをそこにいた兵士達に向けた。
「ソルジャークラス1stのアンジール・ヒューレだ。しばらくここを占拠させてもらう!」
 そう宣言し剣を振り回して威嚇すると、カンセルと共にそこにいた兵士達を片っ端から部屋の外へと追い払う。そして内部からロックをかけた後、通信機器の操作を始めた。
「カンセル。全ての通信を遮断。外部からコントロールが出来ないようにセキュリティーをかけろ」
「了解。…それで?どうなんです?」
「ん?」
 機器をせわしなく動かしながら2人は会話を続ける。
「『脱走』ではないとするとエヴァンのしようとしている事は何なんです? サーは何と予想しているんですか? 俺個人としては『脱走』ですら信じ難い話なんです。他に考えようがない」
「…聞きたいか?」
「ぜひ。あいつは、俺の同期なので」
「……」
 ソルジャーの仲間意識は強い。かき集めた情報が不都合なものばかりだったとしても、それは変わらない。仲間である以上、まず知るべきは正確な事実だ。
 それまで冷静にアンジ-ルの手足となって動いてきたカンセルのその意志を尊重すると、アンジールは重い口を開いた。
「エヴァンは、例のソルジャー噛殺事件の容疑者だ」
「…え?」
 意外すぎる所から出た言葉にカンセルの顔色が変わる。
「ですが、あの噛み殺し方は人間によるものでは無いと…」
「ああ。噛み殺したのはエヴァン本人じゃない。噛み殺しの犯人をエヴァンがかくまっている、と考えるのが妥当だろう」
「何かとは?兵士が目撃したという”四足の動物”のことですか?」
「四足の動物…か…」
「サー・アンジール?」
 すでに自分の予測は追いつかない。そう言いたげにアンジールの言葉を待つカンセルの表情をチラリと垣間見ると、アンジールはさら重い口を開いた。
「…エヴァンに、弟がいたろう」
「はい。3ヶ月前にミッション中に死亡した一般兵だと聞いていますが…」
「弟の名は、ロイ・オレス。調べた所、一般兵の……code="D"だった」
「………」
 code="D"。その言葉にカンセルは息を飲み、顔色が変わる。
「…まさか…そんな事…アイツは、何も…」
「契約を結んだのはロイ本人だ。エヴァンはロイが死ぬまで何も知らなかったのだろう…ミッション終了後、code="D"として科研に連れ去られて行くロイの遺体に発狂したように縋ったそうだ」
「…そんなことが、あったなんて…」
「ああ、エヴァンは誰にも言わなかった。だがその3ヶ月後、ソルジャーを狙った猟奇殺人が発生する。そしてその犯人をかくまったエヴァンが、弟と同じcode="D"であるザックスを連れ姿を消した。…エヴァンがそうまでしてその犯人をかくまう理由は何だ。そして何故ザックスを連れて行った。…真意はどうあれ、ただの脱走目的とは思えない」
「……まさか……」
 ショックのあまり声が小さくなって行くカンセルに、アンジールの叱咤が飛ぶ。
「準備ができた。セフィロスの飛空挺を呼び戻すぞ。何としてでも軍よりも先に潜水艦を見つけ出しこれを確保する!カンセル!真実を知りたければ目を背けるな!」
「…イ、イエッサー!」
 そして、ソルジャー用の緊急回線が開かれた。



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