■ After The Battle 第一章 第4話 黄泉の密約 09 |
「分かった…その願いを、叶えてやる。だがそれにはまず、今すぐここからザックスを連れ出したい。どんな無茶でも構わない、セフィロス、何か手立てはないか?」 アンジールは強引に事を進めようとしていた。 ホランダーが一命を取り留めた以上、これ以上ザックスを科研に置いておくわけには行かない。もしもホランダーがまた行動を起こせば、今度はジェネシスにも危害が及びかねないのだ。躊躇している時間は無い。 「これを…、使ってみてくれ」 セフィロスはアンジールに応えるようにそう言うと、自分のドッグタグが付いたブレスレットを外し、その重なった2枚の中に隠していた淡い色を放つ小さな粒を取り出した。 「それは?」 「ザックスから貰った天然のマテリアの核だ。…何の力も持たない結晶だったが、俺がここまで育てた」 それは、指先に乗るほどの小さな粒だった。 神羅が製造したマテリアと比べるとあまりにも淡い色だったが、緑色に輝くその光には揺るぎの無い力強さがある。 「見たところ回復系のマテリアだな…だがザックスには…」 「分かっている、ホランダーの仕業だろう…。宝条のラボにいれば嫌でも情報が入る」 セフィロスはその核をかざすとザックスへ向けるようにガラスに付け、それを覆うように手の平を当てた。 「だが、この核は違う…。この星自らが、ザックスに与えたものだ」 そしてその手の中で核が強く光り出すと、ポッドの中の魔晄に浅い波紋を作り始めた。 「星が自ら与えたものでザックスが傷つくはずはない。もしもこれでザックスが傷つくのなら、俺は…」 波紋はやがてポッド全体に大きく何重にも広がる。 「俺は、…この星を潰す」 そして小さな核が強い輝きを放つと、衝撃を受けた魔晄は無数の小さな気泡を立ちあげながらザックスの全身を包んでいった。 ・ ・ ・ ─── …来い。俺はここだ…─── セフィロス…? その『声』がザックスの耳に届いた瞬間、黒い世界の中でもがくザックスの意識は突如、下降を始めた。 落下とは違う、まるで何かに叩きつけられるような勢いだ。その激流に頭から足先へと一気に血の気が引く。 「――…ッ!」 何が起きたのかと頭で理解するよりも先に、どこかに叩きつけられたかのような強い衝撃が全身に走り、ザックスの息は一瞬止まる。 だがそれが、肉体への帰還だった。 「…ぅ…ッ…」 「気がついたか?ザックス」 ザックスが重い瞼を開くと、そこには心配そうに覗き込むアンジールの姿があった。 「……ゥ…」 「すぐに病院へ連れて行ってやる。がんばれ」 アンジールは黒いマントに包んだザックスを抱えながら通路を急いでいた。 ザックスの体温は驚くほど冷たく、血の気の無い肌は自分の目を疑うほど白い。生死の境から戻ってきたばかりなのだ、一刻の猶予もならない。 だが先を急ぐアンジールとは裏腹に、ザックスはまだおぼろげな瞳を元来た方角へと向け、切なげな声をあげた。 「…ィ…ル…」 「ん?」 「……っち…、…セフィ…」 あっちに行きたい、と弱弱しい力で顔を向ける。その方角には、間違いなくセフィロスがいる。 「…セフィロスがいるのが分かるのか?」 コクンコクンと微かに頷き、そこに行きたいのだと、少しでもいいからと、幼い子供のように必死に訴える。だが、アンジールは首を横に振った。 「……悪いが、今は会わせるわけにはいかない。もう少し、我慢をしてくれ」 先を急ぐアンジールに抱えられながら、ザックスは悲しそうに眉尻を下げた。 走ればほんの数秒もかからない距離にセフィロスがいる。ミッドガルに来てからもっとも近い距離だ。 だが、その距離は許されず、最も信頼しているアンジールによってどんどんと離されて行く。 「…ふ…ぇ…」 「…すまない…ザックス」 切なげに泣くザックスの背中を、アンジールは慰めるように摩っていた。 |
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