■ After The Battle 
第一章 
第4話 黄泉の密約 07 

  
 重苦しい空気が流れていた。
「…本当なのか、セフィロス」
 アンジールは信じがたい表情を浮かべていた。もしもジェネシスの言っている事が正しければ、セフィロスもまた宝条の元でcode-"D"と同等の扱いを受けている事になる。ザックスを助ける為というには、あまりにも分が悪すぎる条件だ。
「セフィロス、顔を見せろ」
 真意を確かめようと、アンジールはセフィロスのフードに手を伸ばす。が、セフィロスはそれを嫌がるように一歩引いた。
「!」
 アンジールは一瞬目を見開き、そして顔を顰めながら伸ばした手を握りこむ。
「宝条に、何をされた…」
 一瞬だが、わずかに見えたセフィロスの顔は青白く、翡翠の中の瞳孔は糸のように細く小さく萎縮し、近づいた指先からは尋常ではない熱さを感じた。通常、体温が低いセフィロスからは考えられない高熱だ。
 一見普通に立ち淡々と話をしてはいるが、その内実は只ならぬ状態である事は間違いない。セフィロスが顔を隠しているのはその為かと思うと、アンジールの胸は痛んだ。
「さぁ、な…。宝条のする事に、興味など無い」
 だがそれでも、セフィロスは自分の中から宝条を徹底的に切り離す。
 それが神羅に生まれ、神羅の中で育ったセフィロスが自然と身につけた盾であることを痛いほど理解出来るアンジールは、セフィロスの状態に関するこれ以上の追求を止めるしかなかった。

「……。ジェネシスが言ったことに、間違いは無いのか?」
「…大体は。だが、少しだけ違う…。特例処置の準備はソルジャー部門の方が先に動き出していた。俺がラザードにそう申告した為だ。だが、それをどこかで嗅ぎつけた宝条はザックスをcode-"D"に選出、神羅はこれを先に受理した…」
 科研へ贄として差し出したものを助ける必要はない。神羅はソルジャー部門の申請を棄却しようとしていた。
 このままではザックスは殺される。そう焦ったセフィロスの元に宝条はやってきたのだ『ソルジャー部門の申請を了承してやってもいい。その代わり…』と。
「圧倒的に不利な条件である事は分かっていた。それでも、この交渉を決裂させる事はできなかった。…俺から出せた条件は一年間という期限のみ。一年の間俺が宝条に従い、ザックスがcode-"D"として生き伸びる事が出来た暁には、俺達は共に開放される。それが、俺が宝条と交わしたの密約だ…」
 セフィロスの話に、ジェネシスはギリッと奥歯を噛んだ。
「…くだらない、内容だ…」
「よせ、ジェネシス」
 憤りに声を荒立てそうになるジェネシスをアンジールが制止する。が、ジェネシスの勢いは止まらない。
「そんなものは契約とは言えない。アンタは、宝条にいいように利用されただけだ!」
「ジェネシス!やめろ!」
「庇うな、相棒!俺達に何の相談もしなく、勝手に取引をしたあげくがこの始末だ!何が一年間だ!それがどんな意味か分かっているのか!」
「分かっている!だが今はそれを責めている場合じゃない!もうすでに2人は危機に晒されているんだ!」
「だからこそ、だ!俺達はこの状況の中で1年間、2人の命を守りきるんだぞ!今、文句を言わずにいつ言う気だ!」
「!、…ジェネシス」
 素直でも親切でもない、だが決して親友を見捨てる事など考えもしないジェネシスの本心が垣間見え、アンジールは仕方無さそうに破顔する。そんなアンジールの表情にジェネシスは本心を隠すように「フン」とそっぽを向いた。
「…すまない…頼む…」
 目の前の2人の小競り合いにセフィロスはポツリと呟くと、深くうな垂れた。それは、見捨てる選択肢など微塵も持たない親友達への、感謝と敬意でもあった。
 どんなに絶望的な状況で誰かが挫けかけたとしても、別の誰かがそれを支える。ついさっきまで流れていた重苦しい空気は、いつの間にか消え去っていた。


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