■ After The Battle 第一章 第3話 赤の帰還 06 |
暗黒の洞窟に炎の閃光が走り、熱風と共に轟音がうねり響く。 宣言通り、ジェネシスはザックスに構う事なく次々と現れたモンスターを一撃で倒し進んで行った。 「…すっげぇ…」 ザックスは後方につき、ジェネシスのその鮮やかな戦闘スタイルに目を見開く。 「子犬、雑魚一匹をお前にやる。仕留めろ」 「よ、よし!来い!」 ザックスは流れてきたモンスターに緊張気味に剣を構えた。アーリマン系モンスター、イビルアイだ。 「やあああ!」 初めての実践に渾身の掛け声と共に振り下ろす。 だが、振られた剣は空しく宙を切り、そのままバランスを崩したザックスは無様によろけ地面へと転んだ。 その隙にイビルアイに怪音波を放ち、キィン!という高音と共に鼓膜が引き裂かれるような激痛がザックスの頭の中に走る。 「…ッ!!…つッ!」 「剣もろくに使えないのか、お前は」 そんなザックスの様子に見かねたジェネシスがレイピアを軽く振り、イビルアイを真っ二つに切り裂く。 すると、発信源を失った怪音波は途絶え、同時にザックスの耳からも痛みは引いていった。 「…ふぅー、助かったぁ。ありがとう…」 「使える魔法は?」 「…サンダーと、…ケアル…」 「それだけか。それでは一般兵より役に立たん」 「くっ…」 全てにおいての未熟さを指摘され、ザックスは悔しそうに下唇を噛む。 ソルジャーになるまで木の棒で真似事をした事はあっても、実際の武器とは無縁の環境だった。ミッドガルに来てソルジャーになってからまだ2ヶ月。その内の約半分は科研にいるのだ。未熟なのは当然といえる。 だが、ミッションの現場においてそれは何の言い訳にも理由にもならない。 「次は、出来る…!」 「では、来い」 負けん気の強い目を真っ直ぐに向けたまま、その悔しさを飲み込むザックスに、ジェネシスは軽く顎をしゃくり先を促した。 洞窟の奥へ進めば進むほど、モンスターは強く凶暴化していく。 ジェネシスはその全てを広域魔法で余すことなく焼き尽くし、かろうじてその攻撃から一命を取り留めたモンスターが出るとそれをあえてザックスへと流す。 ザックスはその度に高めた集中力と渾身の力で剣を振り、モンスターを倒す実績を重ねていく。ジェネシスは視界の端で、その様子をずっと注視していた。 「……」 剣の扱いの不慣れ感はまだ否めないが、勘がいいのか体重移動や踏み込みは回を重ねるほど動きがよくなる。なにより、どんなに動いても体幹にブレがない。 その筋の良さは『面白い』と、率直に感じるものだった。 執心するアンジールの言動も、あながち間違いではないのではないかもしれない。 (…ただの親バカではなかったか…) 親友の必要以上の構いっぷりに不服を感じていたジェネシスだったが、自分でも知らぬまに、いつしかその一角に足を踏み込み始めていた。 洞窟の最奥まで進むと、ジェネシスは足を止めた。 「子犬、これまで遭遇したモンスターの累計を言ってみろ」 モンスターを焼き尽くす紅蓮の炎がくすぶる中、ジェネシスは背中越しに尋ねる。 「イビルアイ23とデスゲイズ16、グレムリン25、あとムーバー6とスリースターズ4」 「ほぅ…」 唐突な質問にも関わらずスラスラと正解を答えたザックスに、ジェネシスは少し意外そうな声をあげた。 「よく見ていたな。ムーバー系の区別までついたのは上出来だ」 「敵を見て瞬時に理解しろって、アンジールに言われてるんだ。解析済みのモンスターデータなら頭に入ってる」 「特訓の成果あり、と言うところか。いいだろう。ならば、俺からの課題だ。子犬、奴に一撃でも当ててみろ」 そう言ってジェネシスが顎で指した先、足元に広がる巨大な洞穴の底にいたのは大きな巨体と角を持つモンスター、デュアルホーンだった。 「このミッションの最終目的のモンスターだ」 「あれが…」 ザックスが覗き込むと、すでに近づいてくる戦闘の気配を察していたデュアルホーンは、角を下げながら唸り声をあげ、威嚇体制に入っている。 全体的な動きは鈍いが装甲が固く剣では刃がたたない。ザックスのような3rdソルジャーが倒せるような相手ではない。だが、ザックスに引く気はなかった。 「よぅし!見てろよ!」 マテリアを装備した剣を構え、正面から威嚇するモンスターへと飛び降りていく。 ザックスが使えるマテリアはサンダーとケアル。戦う前から勝ち目の無い装備と実力だが、小さな新米ソルジャーは躊躇う事なく巨大なモンスターに挑んで行った。 |
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