■ After The Battle 
第一章 
第3話 赤の帰還 05 

  
 

 ミッションの行われる洞窟は、深く、湿度が高い場所だった。
「あっちーい」
 ザックスがハイネックの襟を指先で広げながら顔を顰める。ジェネシスはそれに振り返ることなく、背中越しに答えた。
「地下にマグマ溜まりがあるからな。地下へ潜ればさらに気圧と温度は高くなる。この程度を不快と感じるようなら、ソルジャーの肩書きは捨てろ」
「言ってみただけだ! へちゃらだい、こんなの!」
 負けん気強く言い切ると、ザックスは改めてしっかりと剣を構えて見せる。
 ジェネシスはそれを鼻で笑うと「気合を入れるのは敵が現れてからにしろ」と、後ろ手に手を振りながら奥へと進む。ザックスはそれをまた小走りで追いかけて行った。

 2人が進む通路は人が通るには充分の広さがあり、所々に明かりが確保されていた。
「結構広い…」
「途中まで調査が進められていた巨大洞窟だ。その途中でモンスターの巣に遭遇したらしい」
「だからそのモンスターを壊滅?」
「らしいな」
「ふーん…でも、さ」
 ジェネシスの話を聞きながらザックスは洞窟の中を見渡した。
 通路を塞ぐ岩は容赦なく削り取られ、天井から下がる鍾乳石もへし折られている。それらの残骸は自然にあった空洞の中へと無作法に破棄されていた。
 その有様にザックスは眉をひそめる。
「いったい何の調査?」
 その礼儀無き所業からは、自然への敬意など欠片も感じられず、ザックスは頭を傾げた。
「あの、さ…俺の故郷のゴンガガにも洞窟はあってさ、そこの地下水がすっげー綺麗で美味かったんだ」
「……」
 ザックスの話にジェネシスの視線が動く。
「でも、子供しか通れないくらい小さい洞窟だったから大人達は誰も使えなくてさ。だから「削って皆が入れるようにしたらいいのに」って言ったら、すごくとーちゃんに怒られたんだよ。
中にあるものは自然が気が遠くなるくらい長い時間を掛けて作ったものだから、人間が勝手にそれを壊しちゃいけないって。それが自然の中で生きるルールなんだって、俺は教えてもらった」
「……」
「神羅はそのルールを破ってるよね。そうまでして調べたいものって何?」
 ザックスの純粋な疑問にジェネシスはゆっくりと足を止める。
「…神羅にそんなルールがあると思うか?」
「うーん…」
 ザックスは思い出すように悩みながら歩き、ジェネシスの腰に軽くぶつかり止まった。
「無い、の…?」
「神羅が捜し求めているものはただひとつ、魔晄エネルギーのみ。それ以外のものなどケシ粒ほどの価値も無い。むろん自然そのものも、…そこに生きる命もだ」
 その中に人の命も、そして最も近い危険としてお前の命が入っているのだと、ジェネシスは暗に言葉の中に込めた。
 だが案の定、何も知らないザックスはそこまで気がつかず頭を傾げる。
「…魔晄…?」
「そうだ。科研にもあったろう?」
「うん…。でも、あそこの魔晄ってさ…」
 ザックスの話の途中、それに振り返る事無かったジェネシスが前方から来る魔物の気配を察しレイピアを握った。
 その剣のかすかな音にザックスが口をつぐむ。

「さっさと終わらせる、勝手について来い。くれぐれも、足手まといにだけはなるな」
 ジェネシスは背後にいるザックスに振り向くことなく告げる。
 そしてミッションの開始を告げるように軽く翳された右手の中で、赤いレイピアは鈍く輝く。
 繊細な彫刻で飾られた、ジェネシスの赤いコートと同じ真っ赤な細身の剣。ザックスは初めて見るその剣に息を呑んだ。
「すっげぇ…」
 アンジールの持つ重厚なバスターソードをは全く違う、まるでそれ自体に魔力があるような、赤い血の色を帯びたような剣だった。
「子犬。無駄口を叩くな」
「イ、イエッサー」
 ジェネシスの静かな叱責にザックスは口元を引き締める。
 ザックスが目指すセフィロスと同じ場所にいるソルジャークラス1st・ジェネシス。その人が今、目の前で戦闘を始めることにザックスは少なからず血が沸き立つのを自覚していた。
 セフィロスが英雄として著名な分、ジェネシスは謎に包まれている事が多い。ザックスはその戦闘を余す事なく目に焼き付けようとソードを構え、後について走り出した。




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