■ After The Battle 第一章 第2話 code-"D" 04 |
建設途中の鉄骨が幾重にも重なり連なる都市、ミッドガル。 サーチライトで照らされたその夜景を見渡すように中心にそびえ立つ巨大な神羅ビルは、世界最大の科学力と軍事力を持って世界に君臨する巨大組織の中心であり、神羅の全ての頭脳が集約された拠点でもあった。 24時間の徹底的な警備体制がひかれ、上層部に上がるほどそれは頑なに強化される。そのため例え同じ神羅社員だとしても、より選ばれたほんの一握りのエリートにしか上層部に行く事は許されない。 そんな巨大で見えない扉に閉ざされたビルの入り口前にザックスはいた。 停められたバイクに跨ったままシートに上半身を伏せ、遥か上層部を虚ろな視線で見上げながら小さく溜め息をつく。 「…遠ぉい…な…」 空気が冷えて固まってしまったように静まり返った闇夜の中に浮かぶ巨大な塔。 下からでは何階あるのかさえ数える事も出来ない。 目の前にあるのに見えない幾つもの扉に固く閉ざされ入れない場所。そんな印象を受ける所だった。 「ザックス、お待たせ。連絡がついた。行くぞ」 少しだけ離れた場所でどこかに電話をしていたカンセルがフリップを閉じて戻ってくると、バイクシートの上でグッタリと伏せているザックスに気がつき、心配そうに顔を覗きこむ。 「どうした?さっきまでの元気はどこ行った?」 言いながらクシャリと癖の強い黒髪を撫で、そこで感じた体温とザックスの朦朧とした表情に手が止まる。 「お前…熱あんのか?」 言いながら改めてザックスの額やうなじにに手の平を当てれば強い熱さが手に伝わった。 「ちょっと腕触るぞ」 思い当たる節を確かめるようにカンセルはそっとザックスの左腕に触れる。その途端、ザックスは顔をしかめた。 「痛…っ」 「あー、これはイッてんな」 眉を寄せて耐えるザックスに気遣いながら他の箇所も確かめれば、各所にある腫れと傷、中でも右足首の酷い膨れは出来たばかりの骨の歪みで高い熱を発していた。 「…よく頑張ったな。相当キツかったろ」 カンセルが優しい声でそう労うと、ザックスは熱で朦朧とした視線だけを向け小さく微笑む。 「…っていうかさ…さっきまでは夢中で、平気だったんだけど…。…カンセル見たら…気ぃ抜けぬけちゃったみたい……エヘ…」 照れ隠しのように小さく笑いながら途切れ途切れに言葉で伝えては、時より痛みに耐えかねるように眉をよせる。 その無茶な痩せ我慢をする姿にカンセルは小さく溜め息を付くと、子供をあやすように優しく声をかけた。 「なら、そのまま気ぃ抜いてろ。すぐに治せる所に連れて行ってやっから」 そのままザックスの身体を抱きあげようとカンセルが手を伸ばす。が、ザックスは抵抗するように痛む身を僅かに引き、縋るように情けない声をあげた。 「病院?」 「あ?」 「病院ならやだ…。行かない!」 「ザックス?」 半泣きのように見えるのは熱のせいなのか、それほど病院に行きたくないからなのか。 ザックスの意図に首を傾げたカンセルに、ザックスは必死に訴えた。 「あそこ…気持ち悪くなる薬ばっか打つんだ。たくさん血も取るし…一日中検査ばっかで…もう行きたくない」 泣きそうな顔をしながら、左腕一本で必死にバイクシートにしがみつく。 「……熱あんだろ?」 「行かない」 「身体中、痛いんだろ?」 「…行かない」 「そのままじゃ、死んじゃうかもしれないぞ?」 「……ゴンガガに帰れば治る…」 「どうやって帰るんだ?ゴンガガは遠いぞ?」 「………連れてって」 「そう来たか」 意地っ張りの頑固者かと思いきや、絶妙な所で現れる甘えんぼにカンセルは頭を振った。 むろん、ここで「じゃあ、行きましょうか」とザックスが甘えるままにゴンガガに行くわけにはいかない。むしろその腕を解き、力づくで病院に連れて行く事の方がはるかに容易い。 が、カンセルはそれはせず、視線を合わせるとザックスが納得するように説得を始めた。 「分かった。なら病院には行かない」 「…ホント…?」 「さっきも言ったろ?このミッドガルで一番安全な所へ行くって。その人に頼んでやるよ。病院より早いし変な薬も検査も無い。一瞬で全部治してくれる」 「…ホントに…?」 「ああ。本当は無闇に使ってはいけない手段だけど、特別だ。だからんな所にしがみついてないで、こっちこい」 カンセルに腕を広げられザックスが自らバイクから離れると、そのままカンセルに抱きかかえられた。 「誰んとこ、行くの…?セフィロス……?」 カンセルの肩に汗ばむ額を乗せ、気だるそうに瞼を閉じながら呟く。 カンセルは安心させるようにポンポンとザックスの背中を叩いた。 「英雄と同じくらい凄い人だ。俺は一番に尊敬してる」 「…なんだ…セフィロスじゃないのか…」 薄明かりだけが灯る人の気配の無い神羅ビルの中を、階段を上がるカンセルの靴音が小さく響いた。 「ガッカリすんなよ。頂点は1人だけで立っていられるもんじゃない。それを支える人間がいてこそだ」 「…ふぅん…」 「ま、難しい話はまた今度な。もう少しだから、目瞑ってていいぞ」 「…ぅん…」 カンセルの腕の中でグッタリとしているの頭をクシャリと撫でると、カンセルはエレベーターのスイッチを押して中に乗り込む。 軽い電子音と共に扉が閉じると、大きな揺れもないまま静かに上昇を始めていった。 |
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