■ After The Battle 
第一章 
第2話 code-"D"  02 

  
 
 喚く。
 叫ぶ。
 なりふり構わず騒音を立てて、とにかく人を呼ぶ。
 ソルジャーを相手にした時の一般人が出来る唯一の抵抗はそれだけだった。

「うあああああ!」
「うるせぇぞ!黙れ!クソガキ!」
 大きなで平手打ちをされザックスの視界が大きく回る。それでも心は折れずに叫び続けた。
「黙るもんか!離せ!ちくしょー!!」
 何も無い部屋の床に押し倒され、押さえつけられて無理矢理衣服を引き裂かれて剥ぎ取られる。
 何の知識もなく幼いザックスにも、その意図は漠然と理解できた。
 人数的にも、力的にも叶うはずの無い状態。だがそれでも、このままいいようにされるわけにはいかない。
 骨折した腕をさらに踏まれようと、足を捻られようと、その痛みに屈して大人しくするわけにはいかなかった。
「どうするロウダ?このままだと人が来るぞ」
 足を押さえつけていた1人が、リーダー格の男に問いかける。
「チッ!これだから色気の無ぇガキは嫌なんだ。おい!何か口の中に突っ込め」
 ロウダと呼ばれたリーダー格の男に命令され、もう1人の男が手近にあった引き裂いたばかりのザックスのシャツを丸める。
「いい子にしてりゃ、こんな手荒なマネされなかったのによ」
 言いながらザックスの顎を掴み、歯を食いしばるそれを無理矢理こじ開けると容赦なく中に布の玉を突っ込む。
「…ん!んんん…っ!」
 息苦しさと顎の痛みに、ザックスはくぐもった悲鳴を上げた。
「よし、いいぞ。犯っちまえ」
 足を抑えていた男が申し訳程度に引っかかっていたジーンズを引き抜くと、暴れる膝を力で捻じ伏せて腹まで折り曲げ、左右に開く。
「んんーーーー!!んん!ン!!!」
 全てを押さえつけられ自由になる最後の箇所である頭を左右に激しく振り、ザックスは決死の抵抗を続ける。
 それに構うこと無く臀部に不快な冷たい手がかかり、その感触にザックスが固く目を閉じたその時、

「やかましいぞ!何事だ!!」

 ドアが激しく叩かれ、外から教官のドスの聞いた声が響いた。
「ザックス・フェア!荷物を置いたらすぐに来いと言ったはずだ!貴様何をしている!」
「チッ!ひとまず引くぞ」
 通常ならば恐ろしいであろうその怒鳴り声だったが、それをきっかけにソルジャー達がザックスを離し窓から退散した事で、ザックスにとってそれは救いの声となった。
「出てこんか!フェア!」
ドアは相変わらず激しく叩かれていたが、ザックスにはそれに応える気力は無い。
 解放された体は強引に取らされた姿勢からは崩れていたものの、筋肉は強張り思うようには動かず、小さくカタカタを震えていた。
「……、……ハ…ッ」
 口から布が落ち、ようやく呼吸を取り戻したかのように息を吐く。
「……ァ……ぅ……ちきしょ……」
 零した言葉に力は無い。
 何が起きているのかは分からなかった。
 どうして自分がこんな目に合うのかも分からない。
 ただ『神羅は怖い所』。
 それを身にしみて覚えるには、充分すぎた。


 ロウダをリーダーとしたその3人の付き纏いはその後も続いた。
 翌日も、その翌日も。
 兵士としての講義の移動時間、訓練の後のシャワーの後など、ザックスが1人になるのを見計らい隙はないかと監視してくる。
 そして、チャンスがあれば再び乱暴を仕掛けてくるのだ。
 ザックスはその度に騒いで抵抗し、人のいる方に逃げ込んだ。1人になるのを極力避けるために常に多くの同僚達といるようにも務めた。
 だが、相手がソルジャーとなれば自分の身の可愛さに仲間達は自然とザックスから離れて行く。
 それは教官も同じだった。
 いつしか初日に助けてくれたあのドスの聞いた教官でさえ、見て見ぬふりをし出していた。
 ソルジャーに目を付けられたら最後、誰も助けてくれなどはしない。
 それだけソルジャーの力は一般人には脅威でしかない。
 ザックスが神羅に来て学んだのは兵士学でも銃の使い方でもなく、そんな耐え難い現実だったのだ。




「畜生…ソルジャーって、もっとカッコイイもんじゃなかったのかよ…」
 鉄骨の冷たいビルの床を這いながら逃げ、ザックスは小さくごちる。
 今日も逃げて逃げて逃げ続けて、ついにスラムまで追われてしまった。
 ここにはもう神羅の関係者もいない。
 一般とされている中でもさらに弱いスラムの住人のエリアとなれば、どんなに泣き騒いだとしてもザックスに手を貸す人などいやしない。
「ソルジャーの強さは理解したろうが」
「自分より弱いもんいたぶるなんてソルジャーじゃない!男でもない!」
 追い詰められ、床を這うようにしながらもザックスは叫んだ。

 ザックスがゴンガガで見たテレビには、モンスターをやっつけるカッコイイソルジャーの姿が連日放送されていた。
 みんなを守り、ミッドガルを守るヒーローの一団。
 その頂点に、あのセフィロスが居たのだ。
 誰よりもカッコよく、誰よりも強いセフィロス。
 会えたのはただ1度きり。でも必ずそこに行くと約束した。一緒の所にいると約束した。
 そのために、ザックスは神羅の入社可能年齢となる13歳になってすぐにここまで来たのだ。
 こんな人気も無い場所で、腐った人間にいたぶられる為に来たワケじゃない。

「ソルジャーのなんたるかも知らねぇ奴が、偉そうな事を言うな。今日が最後だ、ザックス。逃がしゃしねぇぞ」
「来んなってば!」
 口での抵抗ならいくらでも言える。
 だが、まだ一人前の兵士にも満たないザックスに対し相手は目を爛々とさせたソルジャーが3人。戦って勝てるはずもなく、かといって話が通じる相手でもない。
 そしてそれから逃げるのも、どうやらここが万事休すだった。
「う…」
 フロアの隅まで追い込まれ、外壁部分から外へ広がった深く暗い闇を見下ろしザックスは思わず息をのむ。
 地上は遥か下、見るだけで吸い込まれそうな高さに一瞬にして足がすくんだ。
 背後には嫌な笑みを浮かべたソルジャー達が、まるで獲物を追い詰めて楽しむようにゆっくりと近づいて来る。
 その気配と下界を交互に見比べ、ザックスは鉄骨を握る手に力を込めた。
「お、飛ぶのか?どうせ飛ぶなら楽しんでからにしろよ。死ぬ前に天国を見せてやるぜ?」
「いらねーよ、そんな天国!」
 何とか虚勢を張っって叫んだが、状況は変わらない。
 このまま飛び降りればおそらくは死ぬだろう。運よく生き延びても、まともな体ではいられない。
 だが、ここに留まっても強姦され、地獄の時間が続くだけだ。それだけは嫌だった。

「ち、くしょ…」
 だが、ソルジャー達に距離を縮められいよいよ一か八かのダイブ勝負をすべき時かと奥歯を噛み締めた瞬間、その声がザックスの耳に届く。
「ザックス!!飛べ!」
 そしてその声を頼りに、ザックスは迷わず闇の中にダイブした。



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