■ After The Battle 第一章 第2話 code-"D" 01 |
深夜のスラム街の一角、建造途中のビルの階段を駆け上がる音が剥き出しの鉄骨の間に響き渡っていた。 「はぁ、はぁ、はぁ…!」 響く足音はひとつだけ。 だが、その足音の小柄な人物は追われ、確実に追い詰められていた。 「くそ…っ!今日はホントにしつこい!」 今にも笑いだしそうな自分の膝を叩いて舌打ちをし、息苦しさに耐えかねて階段途中の踊場でズルズルと崩れ落ちるように足を止める。 「…はぁ、は…っ」 左腕を固定され、首から吊るされたギプスを煩わしそうに眉をしかめながら荒い呼吸を吐いた。 片腕を拘束されていては走りにくい。出来ることならば今すぐ外してしまいたかったが、爪を立ててもビクともしない。ギプスは一般人の力で剥がせるものではない。 「ち、くしょ…」 ならば少しでも呼吸を整えようと大きく酸素を吸う。が、それを吐き出そうとした時、わざとそれを阻止し煽るかのようにどこからから鉄骨を叩いて遊ぶ音が木霊し、疲労した体がビクリと震えた。 「!!くそ…っ!」 その音に煽られ、小さく重い体を引き摺りながら階段を駆け上がる。 追われた人物は逃げる小動物のように手近なフロアへと転がり込んだ。 シンと静まり返った建設途中のフロアはガラクタのような機材が床に散乱したままで、窓はおろか壁も無い。 差し込む光はまだ作られていない剥き出しの鉄骨の壁から見える薄暗いスラムの夜景だけで、辺りは当然のように暗い。 見えない足元に構わず進めば当然のように何かに足を取られ、拘束された片腕では支えることもままならずに派手な音を立てて転倒した。 「いってぇー…」 転んだ拍子に捻ったのか、激痛のする右足首を手で抑え眉をしかめる。 そこへ、足音も無く追っ手達はフロアに姿を表した。 「いい様だなァ、ザックス。このまま俺達に輪姦(マワ)されるのと、ここから飛び降りてミンチになるのとどっちがいい?」 人を見下すような不快な声に名前を呼ばれ、蹲った姿勢から顔だけをあげて相手を精一杯に睨みつける。 漆黒の髪と曇りのない輝きをもつ黒い瞳を持つのは、ソルジャー志願の一般兵ザックスだった。 「どっちも嫌に決まってんだろ!バーカ!」 むちゃくちゃな選択に顔を赤くして叫び返す。 睨み上げたザックスの黒い瞳に映ったのは、青い光沢のある瞳を光らせた男が3人。神羅の生きた兵器、ソルジャーだ。 うっすらと分かる制服の色から判断できるクラスは3rd。 ソルジャーとしては最下ランクのクラスだが、鉄骨だらけのビルを音も無く駆け上がるのも、息ひとつ切らさずに獲物を追い詰める事も難なくやってのける。 一般人から見れば、充分すぎるほどの脅威だ。 「やれやれ、あれも嫌、これも嫌。これだからガキは…」 「そのガキを寄ってたかって襲ってんのは、どっちだよ!」 手近にあったものを適当に握り投げつけ、ザックスは壁の無い外壁へと転がりながら走った。捻った足首は痛むが、それに構っている暇はない。 「選ばないなら、両方するぜ?文句無ぇな?」 「だから嫌だって言ってんだろ!いいかげんにしろよ!毎日毎日しつこいぞ!!」 「相変わらずキャンキャンとうるせぇな。俺達が遊んでやってるおかげでお前は命拾いしてるんだ。感謝して欲しいくらいだぜ」 「言ってる意味が分かんねぇよ!やめろ!こっち来んな!」 うすら笑いを浮かべ、ジワリジワリと弄ぶように近づいてくる相手に必死に叫んだ。 ザックスの不遇は神羅入社直後から、その片鱗を見せていた。 エントランスでセフィロスを見かけ、そのあまりの嬉しさに喜び勇んで駆け寄るも直前の所で捕獲。 有無も言わぬ間に高い吹き抜けのホールから放り投げ出され全身打撲と左腕を骨折、そのまま入院を余儀なくされた。 入院中良かったことといえば看護師が優しくて可愛かった事と、「2ndの仲間が手荒なマネをした」と見舞いにきてくれたソルジャー2ndのカンセルと知り合い仲良くなれた事だけで、それ以外は繰り返される検査と投薬にザックスは心底飽き飽きしていた。 退院が許可されたのは5日後。 が、これでやっとスタートラインに立てると周囲から5日も出遅れてやっと寮に入ったザックスを部屋の中で待っていたのは、不穏な空気を纏った見知らぬソルジャー3rdの3人だった。 「お前がザックス・フェア?」 「そうだけど……なに?」 寮の部屋のドアを開けたまま、自分の荷物を持ったまま佇むザックスを品定めをするように全身を舐めまわし見てくるそのソルジャー達に、ザックスは自然と身をこわばせる。 「ふぅん…可愛い顔はしてるがまだガキだ。小せぇケツ」 「どうする?ヤったらすぐに壊れるんじゃないか?」 「構わねぇよ。どうせスケープゴートだ。瀕死でも死ななければいい」 突然の出来事と意味の分からない会話だった。だが、明確に感じる危機感にザックスの顔は強張り足が後ろに下がる。 その怯えた様子に、リーダー格らしきソルジャーは獲物を決めたようにニタリと口角をあげた。 「お前に残された時間、俺達がたっぷり遊んでやるぜ?ザックス」 「や…!」 ザックスの小さな体が中に引き込まれ、ドアに鍵がかけられたのは一瞬だった。 |
◇ next→ 02 |