■ After The Battle 第一章 第1話 銀の糸と黒い珠 05 |
バラバラと遠くから近づいてくるヘリの音が聞こえ、セフィロスはザックスの腕から再び立ち上がり背筋を伸ばす。 「もう行け。騒がしくなる」 ヘリの音に子供なりに引き際を感じたザックスは水筒を拾い肩にかけた。 「あ、そうだ。これあげる」 水筒を返し、中から小さな粒をひとつ出すとそれを手の平に乗せてセフィロスに差し出す。 「今日、水の中で見つけたんだ。セフィロスにあげる」 セフィロスはそれを受け取り目の前にかざす。 それは小さな粒だった。直径6mmほどだろうか。指の間に強く挟めば皮膚の間に埋もれてしまいそうなほどの小さな粒。 「どこの水だ?」 「ここのだよ?」 だが、淡い緑の色を放ったそれはまぎれもなく 「マテリアだ」 「まてりあ?」 「でも、何の力もない」 天然の魔晄から育成された天然のマテリア。その核となる小さなものは地上に出ない分、非常に珍しいものだった。 だが同時に、小さな核のままであるそれは何の力もつけてはおらず、マテリアとして役に立つものではない。 「ふーん?でもきれーだから、セフィロスにあげる」 幼いザックスにとってそれが何であろうとただの綺麗な石であることに変わりはなく、その『綺麗な石』こそが最上の賛辞だ。 「ね、また会ったとき、キスしていい?」 よほど気に入ったのか、セフィロスに向けた笑顔はまたキラキラと輝いていた。 「その時にな」 「やった!またね、セフィロス!」 セフィロスに頷かれザックスは森の中に走り出す。途中突然止まったかと思えば、再び振り返って両腕を大きく振り回し「またね~!」と念を押して再び走り去り、姿が見えなくなる頃に最後の駄目押しとばかりに森の奥から「セフィロース、またねー」と声だけを響かせてきた。 その長い挨拶の声を、セフィロスは聞こえなくなるまで見送っていた。 「待たせた、セフィロス」 ややあってかけられた声にセフィロスが振り向くと、そこにはソルジャーの黒い制服に身を包んだ黒髪の少年がヘリから飛び降りた所だった。 「アンジール」 黒い髪に青い魔晄の瞳。背に大きなバスターソードを背負った少年はセフィロスより2つ上のソルジャーである、アンジール。 幼い頃に出会い、唯一気を許せる友の1人だった。 「遅れてすまない。直前になってジェネシスが亜熱帯気候が気分が悪いとだだをこね出してしまったんだ」 ジェネシスの名前を出しながらアンジールが頭上を見上げる。セフィロスもそれに釣られて見上げれば、そこにはホバリングを繰り返し停滞するヘリがあった。おそらく中にはもう1人の少年のジェネシスがいて、なんだかんだと文句を並べているのだろう。 「…別にいい」 セフィロスの感情の起伏は少ない。表に出す言葉の数はさらに少ないため、その心情を察するのは近くで彼を見ている者でもなかなか難しいものだった。が、アンジールはそれを敏感に感じ取る。 「機嫌が悪いな。ジェネシスと何かあったのか?」 「…別に」 「喧嘩でもしたのか?」 「……」 黙って視線を反らしてしまったセフィロスにアンジールは肩を落とす。 こうなってしまったセフィロスからは何も聞き出せない事は経験上重々承知していた。 「後でジェネシスに聞いておいてやる」 年齢には見合わない苦労性のような仲介役を名乗り出ると、アンジールはヘリに向かった手を振る。それを合図としてヘリは遠ざかって行った。 ヘリの遠ざかる音を聞きながらセフィロスはグローブの中に隠した小さなマテリアの核を握る。 「俺だって…約束くらい…」 小さく呟いた声は誰に言ったものなのか。 手の平に感じた小さな粒の存在にセフィロスの中には小さくて明るい笑顔が蘇る。 「どうした?セフィロス」 心配して横に並んだアンジールがセフィロスの表情を伺う。と、その表情に大きく目を見開く。セフィロスが僅かに口元を綻ばせ笑っていた。 「…何かいい事でもあったのか?」 日頃から表情が乏しく、特にミッション中は絶対と言っていい程笑わないセフィロスが表情を見せるなど、滅多にある事ではない。 しかも 「うん」 そう応えて素直に肯定するセフィロスをアンジールは初めて見た。 「俺も見つけた」 そう言って自慢気に口角をあげるセフィロスを、アンジールは生涯忘れる事はなかった。 |
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