■ After The Battle 
第一章 
第1話 銀の糸と黒い珠 04 

  
 
「セフィロスー、あそぼ、あそぼ~」
 小さな手で抱きつき、ニコニコと笑顔をふりまきながら催促をする。そんな子供ならではの愛らしいおねだりを断る者などいないだろう。
 だが、セフィロスはザックスの腕を解いて立ち上がり、首を横に振った。
「俺はこれから任務だ。お前は家へ帰れ」
「にんむ?それなに?おれまってる」
「邪魔だ」
 ピシャリとセフィロスに言い切られそれまでの笑顔が曇る。だが、ザックスは引き下がらない。
「じゃましない」
「いるだけで邪魔だ」
「いい子にしてる」
「それでも邪魔だ」
「じゃ、おてつだいする!」
 まるで良いことを思いついたようにザックスは目を輝かせたが、セフィロスは表情ひとつ変えず言い放った。
「必要ない」
「じゃ…、ぇっと…えと…、……」
 押し問答は切り捨てる方に分がある。
 何を言ってもことごとく否定され、ザックスはネタが尽きたように眉を八の字に下げて口をパクパクさせた。
「…ぇ、と…」
「帰れ」
「やだ!もっとセフィロスといる!」
 踵を返そうとしたセフィロスの足に慌ててしがみ付くと、ザックスは両腕に必死に力を込める。
 絶対に離さないとばかりに口を強く結び、顔中に力を込めて目を硬く瞑り頑張る様は幼いながらも頑固そうな一面が見えるようだった。
「……」
 だが、ザックスがどんなに必死に力を込めていたとしても所詮はたかが普通の子供の力。ソルジャーであるセフィロスにとっては引き剥がすのも放り投げるのも造作も無い。
「セフィロスといる…」
「……」
 が、セフィロスはあげようとした手を止め、ただ戸惑うように首を横に振った。
「…俺は遊びをしない」
 やっと帰ってきたセフィロスの返事にザックスはやっと顔をあげた。
「…?セフィロスはあそばないの?」
「遊んだ事なんか無い」
「……??」
 意外すぎるセフィロスの返事が理解できないようにザックスはその両目を大きく開く。
「じゃぁ、毎日なにしてるの?」
「任務と実験」
「じっけん???」
 遊ぶ。食べる。寝る。多くの子供がそうであるように、ザックスの毎日もまたその3つで出来ている。セフィロスの言う『任務』や『実験』は、ザックスの世界には無い言葉だった。
「じっけんってなに?」
「分からない」
「うん?ん?う~ん…??」
 セフィロスの返事にさらに分からなくなったザックスは、左右に何度も首を傾げて考えた。が、いくら考えても知らないものは知りようがあるはずない。
「うーん、うーん」
 それでもセフィロスにしがみつきながら一生懸命何かを考えて眉を寄せて口を尖らせる。が、やがて何かを決めたように再びセフィロスを見上げると、真っ直ぐにその黒い瞳を向けた。

「…じゃ、おれがセフィロスんとこに行く」
「俺の所に?お前が?」
「うん。そこでいっしょに『にんむ』と『じっけん』する」
「一緒に?」
「うん」
 言っている言葉の重みを幼い子供は分かってはいない。
 だが、それはセフィロスも同じだった。
 特殊な環境であろうと無かろうと、生まれ育った環境こそがその子供にとっての『普通』であり、そこにある重みや意味を理解できるのは世界の広さを知ってからのこと。
 小さな村の中で守られているザックスと、神羅の管理下にあるセフィロスはその意味では変わりはない。

 セフィロスにしがみついていた小さな腕を解き、ザックスはその両腕をセフィロスに広げる。
「やくそく」
 その真の通った黒い瞳に引き寄せられるように再び跪くとザックスの柔らかな腕に抱きしめられ、セフィロスは小さく笑った。
「待ってる」
 白い陶器のような肌に整った顔立ち。セフィロスのそれはこの世のものではないような錯覚さえするほど綺麗だが、どこか寂しさを纏う。
 ザックスはその声を耳の奥に留めるとしっかりと頷いた。

「うん。やくそくだ」




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