■ 天空のひまわり 
04 開花 

 

「セフィロスが怪我?!」
 その夜、アンジールとジェネシスの部屋には軍の大人達がやってきました。
 大人達は、今日の任務でセフィロスが怪我をしたと話しはじめたので、アンジールは目を大きくして驚きます。
「それでセフィロスは?!怪我の具合は?」
 でも、大人達はそんな慌てるアンジールを失笑したのです。
「セフィロスに怪我など意味は無い。アレは究極の戦闘兵器だ、お前達とは出来が違う」
 その言葉にひとまずセフィロスは大丈夫なのだと悟りアンジールはホッとしましたが、隣にいたジェネシスは眉をしかめました。
「だが、怪我をしたきっかけが問題だ」
「きっかけ?」
「花を守ろうとした。たかが雑草をだ」
 村から退却する途中、セフィロスは野に生えていた小さな黄色い花に足を止めていました。
 このままでは焼き払われるその小さな黄色い花を助けようとして、セフィロスは村を焼く炎に巻き込まれたのです。
「…花…」
 アンジールはそれがひまわりのせいだという事に、すぐに気がつきました。
 そしてそれが、戦場では命を脅かすことに繋がるという事も。
「もう分かっているな。お前のせいだ、アンジール」
「……」
 大人達の言及にアンジールは言葉を返せませんでした。
「セフィロスに戦闘以外の能力は必要ない。子供の遊びだと思って見逃していたが、今後は禁ずる。セフィロスに無駄に会うことも許さん」
 それだけを言い捨てると、大人達は部屋から出て行きます。
 残されたのは、肩を落とすアンジールと大人達の背中を睨みつけていたジェネシスだけでした。

「…やっと、笑うようになったんだ…」
 アンジールは悔しそうに拳を握りました。
「セフィロスは人間だ。戦闘兵器なんかじゃない」
 あの冷たい眼差しも、人形のような無表情さも変えたかった。アンジールはただそれだけでした。
 けれど、それを主張することも叶えることも今のアンジールには出来ません。
 アンジールは何もできない子供、それが現実だからです。
「…強くなるぞ、アンジール」
 そんなアンジールにジェネシスが声をかけます。
「強く…?」
「俺達が強くなって英雄になるんだ。そしてセフィロスと対等、いや、それ以上になる」
「ジェネシス…」
「そうすれば、俺達はなんでも出来る。セフィロスを助けるのも、あいつらを黙らせるのもなんでも思い通りにする。誰にも文句は言わせない」
「……」
「いいな、相棒!」
 一見我侭で傲慢にも取れるジェネシスの宣言でしたが、アンジールの目は熱くなりました。
「泣くな!お前が泣いても可愛くない!」
「うっ、うるさい…っ」
 ジェネシスのゲンコツに、アンジールは何度も目を拭いました。




 翌日から、アンジールとジェネシスの厳しい特訓が始まりました。
 人並み以上の学習とトレーニング。連続する実力より難易度が高いミッション。
 でも、その全てがセフィロスに追いつくための試練でした。

 今日もアンジールはミッションに赴くためにヘリに乗り込みます。
「そういえば、ひまわりはどうなっただろう…」
 アンジールが乗っているこのヘリは、神羅ビルの上空を通り過ぎるので今なら見る事が出来ます。
 禁じられてからはセフィロスを迎えに行くことも、屋上へ行く事もなくなりました。セフィロスと途中まで育てたひまわりも、きっともう枯れてしまったでしょう。もしかしたら、とっくに撤去されてしまったかもしれません。
 花には可哀相なことをしました。けれど、それも自分達が選び進んだ世界の理。そう自分にいい聞かせてアンジールは窓の外を見ました。
 すると、そこには…
「黄色…?」
 色の無い神羅ビルの一角に小さな小さな黄色が6つ、天に向かって必死に仰ぐように小さなその花びらを広げています。
 そしてその隣には

「セフィロス!」

 キラキラと、銀色の髪を風になびかせ左手にジョウロを持ちながらヘリを見上げる小さな子供がいました。

「セフィロス!セフィロス!!」

 ハッチを開けてアンジールが身を乗り出します。

「見たぞ!セフィロス!すごいぞ!!ありがとう!!」

 必死に手を振りアンジールは叫びます。


「セフィロス!ありがとうーー!!」


 そのアンジールの手を真似るようにセフィロスはおそるおそる小さな手が上げると、やがてヘリに向かって大きく振りました。
 『ありがとう』セフィロスは生まれて初めてその言葉を言われました。


「必ず、追いつく!追いついてみせるからな、セフィロス!そしたらずっと、一緒にいよう!」


 去ってゆくヘリのは太陽の光に溶けて見えなくなって行きます。
 その太陽の光があまりにまぶしくて、アンジールの言葉が鼓膜に響いて、心が震えるほど込み上げてくるものが熱くて、セフィロスの翡翠の瞳から一粒涙が零れました。

 嬉しくて
 嬉しくて
 生まれて初めて流した涙でした。






 それから数年の時がたち、神羅ビルには今日も沢山の飛空挺が行き来をします。
 その中には、タークスのスカウトでやってくるソルジャー志願兵のヘリもありました。
「おうー。すっげー!なにアレ!!ねぇ!なにアレ!!」
 そんなヘリのひとつの中で、元気な黒髪の子供が隣に座る黒いスーツに赤い髪の人物の肩を叩きながら窓の外の光景に目を輝かせます。
「ひまわりっていう花だ。通称『天空のひまわり』。神羅の社員の隠れた名物だぞ、と」
「すっげー!」
 そこには神羅ビルの屋上一面に広がる黄色い花畑が広がっていました。
 一面の黄色い海が風に揺れてゆらゆらと動き、まるでヘリに向かって思い切り手を振っているように輝きます。
「神羅の英雄達が育てた花だ。よーく拝んどけよ、と」
「英雄達が?園芸の趣味でもあんの?」
「一部な」
「へぇ、意外。」
「つーても、世話したのは最初の数本だ。後は兵達が自主的に育てて増やしたんだぞ、と」
「へぇ、なんで?」
「あのひまわりと見ると「生きて帰ってきた」って気になるらしい。…ま、それは分かるけどな」
「ふぅーん、そうなんだ。でも、ちょっと分かるなぁ。綺麗だし」
 天に向かってゆらゆらと動く大きな花。それは生きる元気を沢山与えてくれるようで黒髪の子供は満面の笑みを浮かべました。
「あそこにはひとつ都市伝説があるんだぞ、と」
「え?なに?」
「あの花壇の木枠の中にひとつだけ曲がった釘があるらしい。それを見つけると幸せになれるそうだ」
「マジで?!俺さがす!!」
「なら、探しに行けるだけのソルジャーになるんだな。落第したら社にも入れないぞ、と」
「まかせろ!俺は4人目の英雄になるんだ!」
「簡単にあの3人に追いつけるもんか」
「なるったら、なる!!なるんだー!」



 無駄に元気な叫び声をあげるヘリを見上げ、ひまわりたちはまるで応援をするようにゆらゆらと揺れていました。



 いつまでもいつまでも、


 揺れていました。













end.






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