■ 天空のひまわり 
03 成長 

 

 次の日からセフィロスとアンジールの花壇作りがはじまりました。


 トントントン。

 トントントン。


 神羅ビルの屋上にトンカチの音がひびきます。
 セフィロスが抑える板をアンジールは器用に釘で打ちつけていきました。


 トントントン。


 セフィロスはそのアンジールの手元をじっと見ていました。
 セフィロスは板と板が釘でくっつくのをはじめて見たのです。
「セフィロスもやってみる?」
 その視線に気がついたアンジールがセフィロスにもトンカチを渡します。
「ここの釘を打つんだ。まっすぐになるように打つんだぞ」
 アンジールが指差した釘をセフィロスは見よう見真似で思いっきり打ちました。


 ドン!……グニャ
 

「……ぁ」
「…曲がったな」
「……」

 釘は見事に曲がったまま板にくいこんでしまいました。
 板は全くくっつかなかったので、失敗です。
 でも、アンジールは楽しそうに笑いました。

「いいぞ、これも味だ!味!」
「…あじ?」
「そ。セフィロスも一緒に作ったっていう証拠」
「しょーこ…」
「そうそう。大切にしような」
 アンジールがまたくしゃくしゃと頭を撫でてくれるので、セフィロスは少しだけ笑いながらコクンと小さく頷きました。
 その笑顔にアンジールは一段と嬉しそうに笑います。
「続きをやろう、セフィロス」
「…うん」


 それから2人は夢中になって花壇を作りました。
 板を抱えて釘を打ち、出来た木枠に石を敷き詰めて土を置き、芽を入れて水をまきます。
 そうやって作った土の中で、小さなひまわりの芽はピンと背を伸ばしています。
 戦うためのソルジャーの服はいつしか花を育てるための土で真っ黒になっていました。
 2人の顔も爪の中も真っ黒です。
 でも、気持ちの良い土でした。
「大きくなるといいな」
「うん」
 セフィロスは、命を育むための土を初めて知りました。





 毎朝8時はアンジールがセフィロスを迎えに来る時間。
 セフィロスは今日もジョウロを片手にその時間を待っています。

 ひまわりの芽は毎日伸びていきます。
 まいた水に負けそうになっていた細い茎も、今は逞しく伸びました。
 黄色い花はいつ咲くだろう。
 そんなことがセフィロスに楽しみになっていました。
 それは、初めて出来た『誰かと一緒の楽しみ』でした。

 8時。
 部屋のブザーがなり、セフィロスは笑顔でドアへと駆け寄ります。
 が、そこにいたのはアンジールではなく、大人達でした。
「セフィロス、任務だ」
 任務。
 その一言にセフィロスの表情は凍ります。
「反神羅の村の壊滅と村人全員の抹殺だ。早く武器を持ちなさい」
 『やりなさい』と言われたことをやらないのは『いけないこと』。セフィロスは大人達からそう教わってきました。
 『任務』はその中で一番守らなければならないことでした。
 セフィロスはジョウロを捨て、刀を持ち。大人達の後に続いて屋上へと向かいます。

「…セフィロス?」
 途中、セフィロスを迎えに来たアンジールをすれ違いましたが、セフィロスは何も表情を変えませんでした。
「……セフィロス」
 アンジールに振り向きもせず、セフィロスは無表情のまま冷たい通路を歩いていきました。





 ひっそりとした山間の小さな村に、セフィロスは1人で立ちます。

『ミッション、スタート』

 そしてその指令と共に刀を握ると、村の中にいる人間に切りかかります。
 悲鳴と罵声、舞い上がる血の匂い。でもそのどれもセフィロスの五感には感じません。
 そうなるように訓練されてきました。それが大人達の『やりなさい』でした。
 無表情のままセフィロスは全ての命を絶やすと、最後にファイガを唱え村を火の海に変えます。
 それは『英雄』の名に相応しい圧倒的な戦力でした。

『ミッションクリア。退却する』

 やがて迎えのヘリが下降をはじめ、セフィロスはそこに向かって歩きはじめます。
 その時です。

『セフィロス、どうした?』
 セフィロスはフト野で足を止めると、その場にじゃがみ込みました。
『セフィロス、退却だ』
 大人達が命令を下しても、にセフィロスの小さな体は動きません。
『セフィロス!』
 村を燃やし尽くす炎が風に乗り、小さなセフィロスに襲い掛かりました。




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